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おうち時間で日本のアニメファンが爆発的に増加中! NYの日系書店で今年売れたベスト5は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
紀伊國屋書店ニューヨーク本店。(c) Kasumi Abe

長引く新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が増えたことで、ここニューヨークではある変化が起きている。

なんと日本の漫画・アニメが「かつてないほど」売れに売れているのだ。

年の瀬のある日、マンハッタンにある紀伊國屋書店ニューヨーク本店を訪れた。2階にある漫画&アニメ関連売り場は、地元客で大賑わいだ。パッと見る限り、年齢層は若い世代が多く、あらゆる人種の人々が買い物に訪れていた。

店長の高野耕太郎さんによると、同店では今年の傾向として漫画やアニメ関連グッズが「爆発的に」売れているという。

新型コロナにより昨春ニューヨークがロックダウンし、同店も3月末から6月末まで閉店を余儀なくされた。それにより人々のライフスタイルに変化が見られるようになったという。

ステイホームの習慣ができたことで、より幅広い層の人々がクランチロールやネットフリックスなどのストリーミングサイトを利用してアニメを観るようになった。それに伴い、同店では店の再開後、ある「異変」が起きた。

「今まで見なかったようなあらゆる層の人々が来店し、漫画が飛ぶように売れています」(高野さん)。具体的な数字は公開されていないが、「2021年の売り上げは2019年に比べて倍以上」だという。

高野さんは毎日店に立ち、漫画やアニメのかつてないほどのブームを間近に感じている。同店アシスタントマネージャーのアレキサンダー・ベニグノさんによると、それらの人気漫画やアニメに見られる共通点は、少年漫画系だという。女性の来客姿も多いが「性別や年齢に関係なくすべての層がブレンディングし、嗜好が少年漫画系に傾倒しています」(ベニグノさん)。

過去記事

入店数制限でいつも紀伊國屋書店の入り口に行列ができていた(2021年初夏)。

新型コロナに「打ち勝った」“先行事例”となるか?NYが復興へ前進、大規模再開へ

NY日系書店(漫画コーナー)、今年の売り上げベスト5

せっかくなので高野さんとベニグノさんに、今年の同店漫画コーナーのベストセラーを聞いた。

売り上げは巻数の多さなどさまざまな要素による影響を受けるため、厳密な数字を基にしたランキングではないにしても、あくまでも売れ行きの傾向としては以下のランキングで間違いないそうだ。(すべて英訳版)

1. 呪術廻戦 (Jujutsu Kaisen)

作者:芥見下々(集英社)。筆者が表紙を撮影。
作者:芥見下々(集英社)。筆者が表紙を撮影。

2. 鬼滅の刃 (Demon Slayer: Kimetsu no Yaiba)

作者:吾峠呼世晴(集英社)。筆者が表紙を撮影。
作者:吾峠呼世晴(集英社)。筆者が表紙を撮影。

3. チェンソーマン (Chainsaw Man)

作者:藤本タツキ(集英社)。筆者が表紙を撮影。
作者:藤本タツキ(集英社)。筆者が表紙を撮影。

4. スパイファミリー (SPY×FAMILY)

作者:遠藤達哉(集英社)。筆者が表紙を撮影。
作者:遠藤達哉(集英社)。筆者が表紙を撮影。

5. 俺だけレベルアップな件 (Solo Leveling)

作者:Chugong(韓国語版: D&Cメディア、日本語版: KADOKAWA)。筆者が表紙を撮影。
作者:Chugong(韓国語版: D&Cメディア、日本語版: KADOKAWA)。筆者が表紙を撮影。

店長の高野さん(右)とアシスタントマネージャーのベニグノさん。筆者が撮影。
店長の高野さん(右)とアシスタントマネージャーのベニグノさん。筆者が撮影。

今年だけではなく万年のベストセラーは?

ドラゴンボール (Dragon Ball)

作者:鳥山明(集英社)。筆者が表紙を撮影。
作者:鳥山明(集英社)。筆者が表紙を撮影。

不動の人気は、ドラゴンボール!「いつも売り切れ気味です」と高野さん。その人気ぶりに加え、コロナ禍による紙不足と人手不足により刷り切れない状態が続き品薄だという。

NYの紀伊國屋書店の2階は、漫画やアニメ関連グッズ(イラスト集、フィギュアなど)の専用フロア。日系のカフェもある。(c) Kasumi Abe
NYの紀伊國屋書店の2階は、漫画やアニメ関連グッズ(イラスト集、フィギュアなど)の専用フロア。日系のカフェもある。(c) Kasumi Abe

アメリカの書物は左開きのため、英訳版の最終ページには注意書きがある。『ベルセルク』(作者:三浦建太郎、白泉社)より。筆者が撮影。
アメリカの書物は左開きのため、英訳版の最終ページには注意書きがある。『ベルセルク』(作者:三浦建太郎、白泉社)より。筆者が撮影。

このほかにも、筆者は11月に取材をした日本のアニメイベント「アニメNYC」で多くの来場者に好きな漫画やアニメを聞く機会があり、いかに『ベルセルク』が当地で人気かを思い知った。

紀伊國屋書店で同作を探してみたが、在庫が僅少だった。公立図書館にも探しに行ったが、やはり紙や人手の不足により手に入りにくい状態は変わらなかった。漫画セクションの司書の女性に在庫状況を確認したところ、同作の大ファンということで話しだすと、熱が入って止まらないほどだった。ついでに同作の魅力について聞いてみたところ「80年代の発売以降、多くの漫画がこの作品に影響を受けました。線の描写がものすごく細かいのが特徴なんです」と説明してくれた。作者の三浦建太郎氏が今年54歳の若さで亡くなり、人気が再燃しているという。

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アニメNYCは今年、コロナ禍にも拘わらず同イベント過去最多の5万3000人の来場者があった。

日本ブームは続く!コロナ禍「アニメNYC」にファン大集結。「鬼滅の刃」英語声優登壇、三浦建太郎追悼も

ニューヨーク公立図書館の漫画セクション。『ドラゴンボール』『鬼滅の刃』『Dr.STONE』などが並ぶ。(c) Kasumi Abe
ニューヨーク公立図書館の漫画セクション。『ドラゴンボール』『鬼滅の刃』『Dr.STONE』などが並ぶ。(c) Kasumi Abe

このような漫画・アニメブームにより次に何が起こっているかというと、日本語学習者人口の増加だ。

「日本語の学習書や子ども用にふりがなを振っている書籍を購入していく人が増えています。また、大学で日本語を受講する人が増えているという話もよく聞きます」(高野さん)

つまり要約するとこうだ。

  1. おうち時間が増えたことで、動画配信サービスでアニメを観る人が増えた。
  2. 日系書店で、漫画を購入する人が増えた。
  3. 日本語の勉強をし始める人も増えている。
  4. (未来予想)新型コロナが落ち着いたら、日本を訪問する人が増えていく...か?

ブームとも呼べる現象を作った漫画・アニメ文化だが、最近は日本に限らず、中国や韓国の勢いも増しているそうだ。「韓国のSolo Leveling(俺だけレベルアップな件)や中国の『Heaven Official's Blessing』なども、もうすぐメインストリームに入ってくると思います」(ベニグノさん)。

日本が誇る漫画・アニメ文化。来年はますますそのブームがアメリカで加速していきそうだ。

(Text and photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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