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小室圭さん報道で考える「人の見た目問題」。日本は真の多様性に向け何が必要か

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:アフロ)

眞子さまと小室圭さんの結婚問題に注目が集まっている。最新の報道では、ニューヨークに暮らす小室さんがミッドタウンで一時帰国に必要なPCR検査後、日本のテレビ局にスクープされたという話題で持ちきりだ。

小室さんと母親のさまざまな疑惑について多くの国民が納得していない状態では、何をしても火に油が注がれる状態のようで、一挙手一投足がマスコミの格好の餌食となってしまっているようだ。

さてニューヨークでの路上スクープについて、筆者は当地に長く住んでいる身として、どうしてもニュースフィードに並ぶ「長髪」「ロン毛」「コムロン毛」「ポニーテール」などという言葉が気になってしまう。

近影の長髪姿を見たが、後ろで縛って不潔な印象は特になかったし、普段はほとんど寮から出ていない生活のようだから、(結婚、就職、労働ビザ取得などの準備で)忙しすぎて髪を切りに行く時間がなく自然と伸びてしまったのかな、くらいの印象しか持たなかった。しかし、これほど長髪についての見出しが並ぶと、否が応にも気になってしまう。

日本はそもそも、髪型(ヘアスタイル)について厳しい国だ。学校では生徒の髪型や服装を校則で厳しく取り締まっているし、令和の時代においても生まれながらの自然な茶髪を黒髪に染めるように言われた、本人の意向を無視し教師が勝手に手を加えた、天然パーマを縮毛矯正するよう指導された、三つ編み禁止を通達されたなど、意味不明な校則がいまだに存在するようだから、小室さんの「長髪報道」もなるほど日本らしいと思った。

小室さんが今いるのはニューヨークであるから、ニューヨーク事情を説明すると、多民族が暮らすこの街では、人の見た目や身体的特徴について、例えば障害はもちろんのこと、肌の色、髪型、体型などについて、他人があれこれ物申すのはハラスメントにあたり、タブーとされている。

髪型に関することは特に近年、規制が強まっており、2019年より州内の職場において、従業員の髪型について言及したり、髪型を理由に不採用にしたり解雇したりすることを法律(人権法=NYSHRL)で禁じた全米初の都市になった。

このような法律がなぜできたかと言うと、裏を返せばそれだけ髪の毛を含む見た目にまつわる嫌な思い(ハラスメント)を多くの人が受けているからにほかならない。被害を受けやすいのは主に黒人、ヒスパニック系、ユダヤ系などで、近年でも職場や学校で、そのようなハラスメントが皆無とは言えない。たびたびニュースにもなっており、例えば18年、ニュージャージー州の白人が多く通う高校のレスリングの試合において、審判がドレッドヘアの黒人選手に対して、髪を切るか試合を棄権するかの選択を迫り、一時試合に出場できない事態になったこともある。

ちなみにアジア系が髪型で被害に遭うケースはほとんど聞かないが、それでも身体的特徴について言及されたというようなケースは存在するようだ。

多民族が共存するNYで求められること

誰の髪が長かろうと、ドレッドロックスだろうと、スキンヘッドだろうと、この街では我関せずが求められる。その人のそのままの姿を受け入れるというのが、真の多様化に向けた1歩になるのではないだろうか。

人の見た目について他人があれこれ言及することがタブーと言えど例外はあり、「褒める」ことは歓迎されている。もちろん異性を過度に褒めちぎることやリップサービスは注意が必要だが、例えばYou look great.(元気そうだね)やYou changed your hair. It looks nice.(髪型変えたんだね。いいじゃん)などは普段の会話でもよくされる。

またそれほど多くはないものの、自虐に他人が多少乗ったり笑い合ったりするのは問題ないとされている。アメリカ人特有のユーモアセンスで、自虐ネタで会話を和やかにするのはよくあることで、コメディの技法でも使われる。

ただ日本人にとってトリッキーなのは、褒め言葉だと思ってかけた言葉が、外国人にとっては実は褒め言葉になっていないものがあることだ。

例えば、日本人が外国人を見て言ってしまいがちな「顔が小さい」「鼻が高い」「(女性の)背が高い、大きい」「髪が多い、少ない」などはNGワードだ。「痩せた」も褒め言葉のようで実はアメリカでは褒め言葉ではない。アメリカでは痩せていることが必ずしもよしとされておらず、太った・痩せたは健康に関わるデリケートな話題のため、よっぽど親密な関係でない限り避けた方が無難だ。

褒め言葉か否かの判断がつきにくい場合、他人の見た目について「何も言及しない」のが賢明だろう。

話が少し脱線してしまったが、今回小室さんの長髪にまつわるヘッドラインがなぜこれほど多いのかというと、「眞子さまの婚約者らしからぬ」ということがあるのだろう。筆者は個人的に、だらしない格好ではなく清潔感がなくされていなければ、どんな髪型でも格好でも気にならないのだが、そのような価値観は日本で許されないのだろうか。「こういう人はこうあるべき」「このような職業の人はこういう格好をするべき」などという固執したイメージを強く持ち続ける限り、なくなっていかない価値観だろう。これは日本だけではなく、イギリスでもヘンリー王子と結婚したアメリカ人のメーガン妃がイギリス国民にだいぶん叩かれてきた。(そんな彼らもカナダを経て現在アメリカ在住)

そもそも、小室さんは多民族が共存するニューヨークに移り住んで3年も経つから、日本独特の「〜らしさ」「〜であるべき」という価値観の中でもはや生きていないかもしれない。

反対意見ももちろん多いだろうし、どれが正解かは見えづらい話題ではあるが、今回の「長髪報道」でふとニューヨーク現地から考えさせられたことだった。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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