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「こんなに美しい家だった」フロリダのビル崩壊から1週間。二段ベッドの持ち主、崩壊前の部屋の様子は?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

米フロリダ州マイアミ・デイド郡サーフサイド町で住居用ビルが倒壊し、1週間が過ぎた。

米主要メディアの情報をまとめると、7月1日までに子ども2人を含む18人の死亡が確認され、行方不明者は145人以上になっている。

また1日朝のダニエラ・レヴィン・カヴァ知事の記者会見によると、現場では不眠不休の捜索活動が続けられているが、29日に瓦礫が落下するなどし難航している。また、倒壊を免れた建物の残りの部分も不安定な状態で、再び崩壊する可能性があるとし、現場で捜索活動を行なっている救助隊の安全が確保されるまで、生存者の捜索を一時中断したとの発表があった。

(Update: その後捜索活動は再開)

事故以来、地道な救出活動が続けられてきた。(ダニエラ・レヴィン・カヴァ氏のツイッターより)

何が起きたのか?

事故は、先月24日午前1時半ごろ起きた。コンドミニアムと呼ばれる12階建ての住居用ビル(築40年)が突如崩壊したのだ。

ニューヨークタイムズのまとめたある生存者の証言では、就寝していたところ、突然火災警報器が鳴り響き、建物が揺れて破片が落下し、崩れたとある。

倒壊したのは、シャンプレイン・タワーズ・サウス(Champlain Towers South)と呼ばれる建物の北東部分だった。全体で約135世帯分あり、崩壊したのはうち55世帯分のスペースだ。

出典:HQ Realty  筆者がスクリーンショットを作成。
出典:HQ Realty  筆者がスクリーンショットを作成。
  • 不動産情報のHQ Realtyでは、3ベッドルームの賃貸が6500ドル(約65万円)、4ベッドルームの購入が310万ドル(約3億1000万円)などとしてリストに上がっている。スペイン語圏の高所得者層も対象に、英語とスペイン語両方の記載。

人々は、ここでの生活を謳歌していた。ある入居者(現在、安否不明)のインスタグラムを見る限り、すぐそばに美しいマイアミビーチのあるコンドだったようだ。ベランダから素晴らしい眺望が広がり「この眺めに飽きることは決してない!」とある。

美しい海が眼下に広がるオーシャンフロントの高級コンドだった。
美しい海が眼下に広がるオーシャンフロントの高級コンドだった。写真:ロイター/アフロ

倒壊の原因は?

倒壊の原因について調査が進められているが、決定的な理由はまだ解明されていない。ただし映像を解析しビルの下層部に注目した専門家からは「進行性崩壊」として知られる構造的障害や、40年前の建築基準法で許可されていた設計上の欠陥や劣化など、さまざまな理由が重なり、倒壊の原因に繋がった可能性が指摘されている。

2018年の調査によると、プールデッキ下のコンクリートスラブに見つかった「重大な構造的損傷」をはじめ、防水上の欠損や、地下駐車場とプール設備室の柱や壁に大量のひび割れ、崩れなどの問題があることが確認されていた。コンドミニアムと呼ばれるビル形態のため、取締役会の承認を経て、これから大規模な修理が行われる予定だったという。

事故の2日前にプール周りを調査し撮影した専門業者も、「(プールデッキの下にある)駐車場の至る所に水が溜まっていた」とマイアミ・ヘラルドに語っている。写真から、ひびの入ったコンクリートや腐食した鉄筋、床の水たまりなどが確認できる。

崩壊した建物から道を挟んだ向かいに住む女性は、建物が倒壊する15分前、駐車場からの水漏れを確認しており、その様子をビデオで撮影し、後にTikTokにアップしていた。(NBCニュース)

二段ベッドの持ち主は?

写真:ロイター/アフロ

この事故に関する数々の報道で、崩壊後にかろうじて残された部分に子ども用の二段ベッドがそのまま残され、人々の生活が昨夜までそこにあったことがリアルに映し出されたことも印象深い。

「この二段ベッドには子どもが寝ていたのではないか」「子の安否は?」など数々の憶測が飛び交ったが、この部屋に子どもはいなかったようだ。

最上階のこのユニットの持ち主は、ニューヨーク出身の女性弁護士だった。リモートワークが進む中で「再出発の地」として同地に移住し、3月から借りていた家具付きのペントハウスであることが、複数のメディアによりわかっている。弁護士の友人談によると、この二段ベッドのある部屋を、女性弁護士はホームオフィスとして使っていたようだ。

アパート探しのウェブサイト、Apartments.comでも、この女性弁護士が後に借りることにした家具付きのユニットや二段ベッドの写真を確認することができる。2ベッドルーム、2バスルームを備えた素晴らしいペントハウスだった。この弁護士は現在も行方不明のままだ。

この女性弁護士のように新天地として同地を選び、海の見える部屋で働いていた人、リタイア後の老後生活をこの地で悠々自適に暮らしていた人、中南米から旅行で来ていた人、たまたま両親のもとを訪れていた人。この建物にはつい最近までさまざまな人々の生活があった。

このような建物が崩壊するなんて、誰が想像できただろうか?

行方不明者は145人以上。崩壊時に一体何人が建物内にいたかが不明なため、人数は変動するかもしれない。
行方不明者は145人以上。崩壊時に一体何人が建物内にいたかが不明なため、人数は変動するかもしれない。写真:ロイター/アフロ

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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