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「うっかり発言」防止のためかバイデン氏は単独会見ゼロで雲隠れ。移民問題に苛立つ国民

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ホワイトハウスで3月8日、国際女性デーについて言及するバイデン大統領。(写真:ロイター/アフロ)

バイデン政権が発足して、もうすぐ2ヵ月になろうとしている。経済立て直しのため、3月12日には1兆9000億ドル(約190兆円)の新型コロナ救済パッケージ法案に、バイデン大統領が署名し、新たな支援制度が実現化される予定だ。

この救済パッケージには、3度目となる給付金(成人1人あたり1400ドル=約14万円、収入によって制限あり)も含まれる。

48日間、公式会見なしの大統領

一方でこの2ヵ月間のバイデン大統領の実績や存在感、主導性について、疑問を投げかける主要メディアもある。

FOXニュースは3月9日、「Biden has gone 48 days as president without formal news conference」(バイデン大統領は就任から48日間、公式記者会見なし)と報じた。American Presidency Projectのデータを基にしたCNNの分析によると、過去100年にわたって前大統領15人は全員、就任後33日以内に単独記者会見を開いてきた。

ニューヨークポスト紙は「48日間というこれまでの大統領で最長期間、単独会見なし」と指摘。今後の会見の予定もないという。バイデン氏は訪問先で記者団の質問に答えることはあるが、カメラとマイクを切るなどして厳重に報道規制をしている様子が窺える。先日は視察先で、カメラとマイクの遮断を条件に記者団の質問に答えた。しかしここ数週間で再び悪化している移民問題について聞かれても、大統領からの返答はなかったと報道された。

単独会見がこれだけ長く開かれない理由について、ホワイトハウスのジェン・サキ(Jen Psaki)報道官は「バイデン大統領は、COVID-19のパンデミックに関連する歴史的な危機で多忙を極めているから」とした。しかしパンデミック対応は今に始まったことではない。トランプ前大統領は会見を頻繁に(パンデミック後の昨春以降は毎日)開いており、そのたびにメディアに扱き下ろされていた。

バイデン政権の「顔」サキ報道官。サキ氏の会見はほぼ毎日行われている。
バイデン政権の「顔」サキ報道官。サキ氏の会見はほぼ毎日行われている。写真:ロイター/アフロ

バイデン大統領は選挙活動中から、数々の言い間違い、勘違い、物忘れ、さらに口だけで行動や実績が伴っていないことや発言内容が日によって違うことなどが指摘されている。バイデン氏が「演説」をする際、台本が書かれたスピーチプロンプターが欠かせないとされている。もちろん演説や記者発表では政治家がよく使うものだが、バイデン氏は台本があってもたまに読み間違える。「演説」はしても「単独会見」を開かないのは、カメラが回っている生放送の場で、記者の辛辣な質問に対応できないからでは、と囁かれ始めた。

バイデン政権が発足して1ヵ月間の評価をしたのはCNNだ。「バイデン大統領が就任して最初の1ヵ月間の発言はトランプ氏のそれと比べて一貫して事実に基づいているが、それでもアドリブの際にいくつか不正確なコメントをした」と指摘した。

記事では、1月20日から2月19日までのバイデン氏による疑わしきコメント40件を、大統領発言を追跡するウェブサイト、Factbaseのデータに基づき調査をし、具体的に発言と事実の相違を指摘している。(以下は一例)

ウォルター・リード陸軍医療センター訪問について

バイデン氏「副大統領時代、毎年クリスマスはウォルター・リード陸軍医療センターを訪れた」

CNN「副大統領として8回のクリスマスのうち5回、ウォルター・リードを訪れた公的な証拠があるが、毎年訪れた事実はない」

中国の習近平国家主席と一緒にいた時間について

バイデン氏(副大統領時代から習主席をよく知っているという話から、歴訪などで)「1万7000マイルを共に移動した仲だ」と2度主張。

CNN「会議などで多くの時間を共に過ごしたのは事実だが、1万7000マイルを『共に』移動した事実はない」

バイデン氏が就任した最初の1ヵ月間の公での発言量は、トランプ氏のそれより約34%少ないが、少ない発言の中でも、そして単独の記者会見を行なっていない状態でも、バイデン氏は「事実に基づいていない発言」をしている。そして発言がなければ、大統領として指摘される問題も少なくなるのは当然だ。

これらもホワイトハウスがバイデン大統領の単独記者会見を開かない(開かせない)理由の1つだろうか。

国境に「津波がやって来た」とトランプ氏

ここ数週間で共和党のみならず民主党からも懸念の声が上がっているのは、バイデン政権の移民問題のハンドリングのマズさだ。

バイデン政権は前政権の移民政策を根本からひっくり返したため、中央アメリカからの移民が大量にメキシコとの国境にやって来ており、国境近くにある避難収容所に拘留されている移民の子の数が激増中だ。この2週間で3倍に増え、避難収容所と政府機関を圧迫している様子が、ニューヨークタイムズ紙などで伝えられている。

3月9日にバイデン政権がフロリダ州ドラル市に住むベネズエラの不法移民に一時的な保護ステータスを付与すると発表し、喜ぶ人々。
3月9日にバイデン政権がフロリダ州ドラル市に住むベネズエラの不法移民に一時的な保護ステータスを付与すると発表し、喜ぶ人々。写真:ロイター/アフロ

人権の尊厳の観点に加え、市民権(選挙権)のない移民でも違法で投票できるようになっており移民は民主党に投票することが多いため、民主党は不法移民の受け入れに比較的寛容的とされている。それでもバイデン政権発足後の移民流入問題は目に余るものがあり、最新の世論調査では大多数のアメリカ人が、バイデン氏の移民政策に反対していると報じられている。

ホワイトハウスのサキ報道官も、移民の過剰流入については失敗と認め、国境越えを思い留まらせるよう、さらなる努力が現政権に必要であるとした。トランプ氏は移民の過剰流入について「もはや制御不能となり、津波を引き起こした」とバイデン政権を非難した。

バイデン政権はさまざまな問題や不安を抱えているが、まだ始りに過ぎない。

メキシコ側からやって来た難民申請者(2月25日)。
メキシコ側からやって来た難民申請者(2月25日)。写真:ロイター/アフロ

Updated:

バイデン大統領は3月11日、新型コロナ救済パッケージ法案に署名した。また同日8pmESTより、プライムタイム初となる「演説」を行ったが記者の質問には答えず、「単独記者会見」が行われていない期間は歴代最長を更新中。

バイデン大統領は就任後64日となる3月25日、初の記者会見を行った。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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