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コロナ禍の米国で最近よく聞くレイオフでない「ファーロウ休暇」って? 日本も増えるか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
新型コロナで景気低迷の航空業界でも、最近「ファーロウ」が聞こえてくる(写真:ロイター/アフロ)

レイオフ、リストラ、ファーロウの違い

まず日本でもよく聞く、レイオフやリストラのおさらいからしよう。

アメリカの人材マネジメント協会(Society for Human Resource Management)によると、レイオフ(Layoff)とは「一時的解雇」を指す。レイオフされた従業員は失業保険を申請できる。レイオフのわかりやすい例は、パンデミック中に職を失った飲食店の従業員らだ。彼らは飲食店が再開したら、元の店に再雇用される可能性は十分高い。

リストラは、よく知られているように「解雇」のことだ。リストラされた会社に再雇用されることは基本的にない。リストラは和製英語だ。英語で「解雇された」ことをI was dismissed.やI was fired.などと言う。ややトリッキーだが、リストラされたからと言って従業員に必ずしも落ち度があったわけではない。しかしI was fired.は従業員に落ち度があってクビになったニュアンスが強い。

そして、最近よく聞くファーロウとは何か。

ファーロウ(もしくはフーロウ、Furlough)とは、会社の従業員、教師や役所の公務員などに命ずる「強制的な一時休暇」のこと。ファーロウ休暇中は当然無給だ。職員は実質的にファーロウ休暇中もその会社や団体の職員であり、景気が回復しポストに人材が必要になったら、再び仕事に復帰できることを十分期待できるのが特徴だ。

レイオフ同様、人件費削減のために雇用主が職員に与えるものだが、筆者の実生活でこれまでほとんど聞く機会はなかった。海外赴任中の軍人や公務員などが祖国に里帰りするときに取られる休暇が「ファーロウ」と呼ばれることもあるようだ。

しかしコロナ禍のアメリカにおいて、筆者の周りでも最近チラホラ聞こえ始めるようになった。

8月末ごろ、某大手の米系航空会社でフライトアテンダントとして働く知り合いの女性が「いよいよ会社からファーロウを言い渡された...」と、ショックを受けていた。

彼女のケースでは今すぐではなく、10月上旬のフライトから外れる。そして「一時的な休暇」という感じではなく、いつ復職できるか現時点ではわからないケースのようだ。

「がっかりだけど、会社が再雇用を始めたらまず最初に私たちファーロウの対象になった職員に声がかかり、もちろん面接のプロセスは省略されるので、今はしょうがない」「Fireされていないだけまだマシ。近所のお気に入り店でバイトでも探すしかない」と前向きながらも肩を落としていた。

NYの市長や公務員もファーロウ休暇

ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は9月16日、自身および市の職員がファーロウ休暇を取る予定であることを発表した。

新型コロナウイルスのパンデミックにより、市は今後2年間で90億ドル(約9400億円)の赤字に直面しており、市役所職員495人が1週間のファーロウ休暇を取ることで、約100万ドル(約1億円)を節約できるという。

特筆すべきは、市長自らも1週間のファーロウ休暇の対象で、減給が課せられるということだ。市長および市の職員は、今年10月から来年3月までの間に無給のファーロウ休暇を取らなければならないとしている。

今後ニューヨーク州議会が市に50億ドル(約5200億円)の借金をする権限を与えるか、連邦政府が新たなパンデミックの追加財政救済をしない場合は、さらなる財政の締め付けが必要になると市長は危惧。財政の締め付け案として、市の職員2万2000人がレイオフされる可能性もあると警告した。

ニューヨーク市では6月末に行われた予算削減により、さまざまな市のサービスの質が落ちている。その最たるものは、深刻な犯罪数の急増だ。

保守派のシンクタンク、マンハッタン研究所により9月16日に発表された最新の世論調査によると、年収10万ドル(約1000万円)以上を稼ぐニューヨーク市民の44%が、市外に引っ越すことを過去4ヵ月の間で検討したと、ザ・ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じた。

(ニューヨークで年収10万ドルは富裕層ではなく、中間層よりやや上の層にあたる)

引っ越しの検討をしている人の30%は、リモートワークという新しい働き方が彼らに新たなワークライフを選択することを可能にしたと答えた。

この世論調査は市内に住む782人を対象に行われ、ニューヨーク市を離れることを検討している人の年齢層の多くは、18歳から44歳の間だという。65歳以上になると引っ越しを検討する人の数は少なかった。

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このようにニューヨークでは市長が先陣切って、500人近くの公務員がファーロウという無給休暇を取らないといけないほど、市の財政面は逼迫している。またロサンゼルスも10月以降、同様の措置を行うようだ。

一方、公務員は不景気知らず、身分保障、一生安泰などと言われている日本では、市長や公務員のファーロウ休暇は現時点でありえないかもしれない。ただ安泰を約束されているからこそ、一般企業と比べて仕事が遅かったり作業に無駄が多いなどの問題点がたまに指摘されているのも事実だ。日本経済が今後さらに低迷することになれば、今回米大都市が決めた措置やもたらす結果の中で、日本も参考にできることがあるかもしれない。

Updated Sep. 23, 2020: 2100万ドル(約22億円)を節約するために、さらに9000人の市職員がファーロウ休暇の対象になりました。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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