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新型コロナで失業「来月の家賃が払えない」 救済金13万円はどこまで国民を救えるか

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
マスクをつけたホームレス(3月17日、ニューヨーク市)。(写真:ロイター/アフロ)

「市内で9分毎に1人が死亡」

「NYPD(警官)900人感染」

「病院の外に死体安置テントを設置」

携帯電話に毎日ショッキングな速報が飛び込んでくる、ここ最近は頻繁に。

3月29日、ニューヨーク州におけるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者数は5万9513人、死者965人、ニューヨーク市では3万3768人、死者678人となった。詳細

先のまったく見えない中、アンドリュー・クオモ州知事はこの日の記者会見でこのように述べた。

「COVID-19に関して人々は今2つの恐れと戦っている。1つはウイルスへの恐れ、 もう1つは生活の現状や先行きへの恐れだ」

失業率20%の可能性も

新型コロナウイルスのパンデミックは雇用を直撃し、多くの人々が失業している。筆者の周りでも、レストランのシェフやサーバー、バーテンダー、ツアーガイド、ミュージシャン、美容師らが一気に職を失った。主に輸送、レジャー、ホスピタリティ、製造部門への打撃は甚大と言われており、世界大恐慌以来の規模で今後経済に大混乱をもたらすことが予想されている。

特にニューヨーク経済の底辺は飲食業が支えていると言われるほど、レストランやバーが多い。市内のレストラン数は2万6000以上といわれており、飲食業界の影の労働力として欠かせない違法滞在者も普通のアメリカ人も見境なく、多くの人々が失業した。失業者の数は32万人とも言われている。詳細

失業したのは従業員だけではない。レストラン、ショップ、ツアー会社や美容院などスモールビジネスのオーナーらも今、路頭に迷っている。

スターシェフのトム・コリッキオ(Thomas Colicchio)氏は、自身が経営する全米7つのレストランで300人の解雇に踏み切った。飲食業界のアナリストらは「この危機により現在閉鎖中の75%の飲食店は、今後も恒久的な閉店に追い込まれるかもしれない」と語っている。詳細

今後、失業率20%も想像に難くないと囁かれるアメリカでは、失業保険の新規申請件数がこの1週間で320万件以上にもなった。この数は前週に比べて10倍以上で、過去最大だった1982年10月の69万件も大きく超える人数だ。詳細

失業保険申請のオフィスに繋がらない

混迷を極めているのは医療施設だけではない。

クオモ知事は13日の記者会見で、州では早くから失業者増加を予想し、この危機により仕事を失った者は失業保険給付の申請までの待機期間7日間を廃止する措置を取ると発表していた。しかし現状では、失業者は失業保険給付オフィスに電話してもまったく繋がらない状態だという。多くの人が朝からいっせいに電話をするため、パンク状態のようだ。2週間以上も。詳細

失業→来月の家賃が払えないニューヨーカー

失業給付金も容易に受け取れない今、人々が恐れているのは来月の家賃だ。家賃の支払い日、4月1日があと数日に迫っている。

東京よりも随分と高いニューヨークの平均家賃はスタジオが月2500ドル前後(約27万円)、1ベッドルームが月3000ドル前後(約32万円)。家賃が収入の30%以上、中には40、50%以上を占めているケースもざらにある。1人暮らしができずにアパートを複数のルームメイトとシェアするのは、この街ではごく普通だ。

アパート検索サイト、プロパティーネストが全米50州に住む人々を対象に実施した最近の調査では、外出制限を強いられている状況では、多くの人が連邦政府から家賃の免除などの救済措置を受ける必要があると答えている。

またニューヨーカーの38.9%が、失業した状態で来月の家賃を払えないだろうと回答した。(向こう1ヵ月分の家賃まで払えると回答したのは13.9%、2、3ヵ月が8%前後、4、5ヵ月が3%前後、6ヵ月以上が25.2%前後という結果)

筆者の周りを見渡しても、特に生活に困窮した様子は見られなくても実は貯蓄がないという人がとても多いので、この回答結果はなんとなく予想範囲内だった。

来月の家賃の支払い期日、4月1日が近づくにつれて、ツイッター上ではハッシュタグ「#CancelRent」(家賃のキャンセル)が飛び交っている。

「ニューヨークは1ベッドルームが平均2750ドル。全米で2番目に家賃が高いこの街で、仕事もなくどうやって家賃を払うんだ?」

「連邦政府からの小切手(1200ドル)が届くまでに数週間かかるだろう。家賃にかかわるモラトリアム(恐慌や天災などの非常事態時に金融の混乱を抑えるために、手形の決済、預金の払い戻しなどの一時的な猶予)が必要だ。今すぐ」

バーニー・サンダース氏は、ニューヨークの家賃一時停止法案を支持。「住宅ローンの支払い(の90日間の延期措置)、(家賃未払いテナントの)立ち退きの90日間阻止、(電気代などのユーティリティが支払えないテナントの)追い出し禁止措置に加え、ニューヨークのような被害が最も大きい州では、家賃の支払いを一時停止する必要がある」

サンダース氏のツイートにもある通り、現在、ニューヨークを含む多くの州では、住宅ローンの支払いと不動産差し押さえの訴訟手続きの一時停止、居住用・商業用を問わず家賃未払いの住民のアパートの立ち退きや財産の差し押さえは90日間は強制されないこと、州からの借金(学生ローンや医療ローンなど)は少なくとも30日間凍結、納税期限を3ヵ月後倒しし7月15日にするなどの救済措置が取られている。

だが、どの政府機関も家賃支払いの凍結などについては発表がない。

筆者は26日に記者向けに開催されたウェビナー会議「Housing and COVID-19: Stopping Home Loss During the Pandemic」(住宅とCOVID-19:パンデミック時の家の損失の防止)に参加した。

講師は、低所得者の人々の家探しをサポートしているNational Low Income Housing Coalition(全米低所得者住宅連合)の会長兼CEOダイアン・イェテル(Diane Yetel)さん(写真の下)。

写真上はFuture of Property Rights Program, New Americaのジュリヤ・パンフィル(Yuliya Panfil)さん。
写真上はFuture of Property Rights Program, New Americaのジュリヤ・パンフィル(Yuliya Panfil)さん。

イェテルさんは「新型コロナにより330万人が失業した今、Emergency Shelter Grants Bills(緊急避難所支給法案)が将来的に家賃を支払えない人々のために使われる可能性は否定できない」としながらも、「連邦政府が今後モラトリアムをどうしていくかによる。家賃についての救済は、現段階では何とも言い難い状態だ」と語った。

緊急支援金2.2兆ドルの使い道

トランプ大統領が27日、新型コロナウイルスのための緊急支援として、経済対策法(Coronavirus Aid, Relief and Economic Security Act)に署名し、同法が成立したことは歴史的にも大きなニュースだ。

可決したのは、アメリカの国内総生産(GDP)の約1割に当たる、これまでにない規模の2.2兆ドル(約237兆円)の緊急支援金だ。これが個人への給付、失業保険給付の強化、中小企業への融資や助成金、州政府の財源や医療現場の支援に当てられる。

個人への給付

2.2兆ドルのうちの約2900億ドル(約31兆2500億円)は、年収9万9000ドル(約1066万)未満の納税者に付与される。

例えば、年収7万5000ドル(約800万円)未満の納税者には、大人最大1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万4000円)が付与される。(夫婦での共同収入が15万ドル(約1600万円)未満の夫婦は2400ドル)。数ヵ月以内に小切手の郵送、もしくは銀行口座への振り込みとなる。

失業給付

増額した失業給付の総費用、約2600億ドル(約27兆9900億円)。失業給付金は4ヵ月間、週につき600ドル(約6万5000円)増額。

通常は失業保険の対象にならない独立コントラクター(フリーランス)や契約社員も対象となる。失業保険をすでに使い果たした人も、追加で13週間の給付が可能。

州労働局のウェブサイトから申請する。(NY州の場合はこちら

中小企業のためのローンと助成金

合計3660億ドル(約39兆円)が中小企業のためのローンや助成金として使われる。ビジネスオーナーは米中小企業局のウェブサイトで申請する。

年金の早期引き出しのペナルティ免除

COVID-19に関連する理由に限り、確定拠出年金401kのような年金口座からの早期引き出しに対するペナルティ(罰金)を排除。ただしペナルティなしの引き出しは、10万ドル(約1,076万)未満に限る。

セーフティネット(健康、州などの主要な支出のため)

そのほかは、ヘルスケア、病院、社会的セーフティネット・プログラム、州政府、打撃を受けた産業補助に充てられる。低所得者用のフードスタンプ(スーパーなどで紙幣がわりに使えるチケット)や子どもの栄養プログラムのために250億ドル(約2兆7000億円)、住宅支援のために120億ドル(約1兆3000億円)が追加される。

以上の中で最大の金額5100億ドル(約55兆円)は、州および航空会社を含む主要産業へのローンのサポートと保証に使われる。

詳細

出典:ニューヨークタイムズ紙
出典:ニューヨークタイムズ紙

救済措置はこのような内容だ。今後どのくらい続くかわからない自宅待機だが、人々はこの高い家賃、食費、そして生活費を賄っていけるのだろうか?(私も含め)

ニューヨークの感染者数はこちら 3/27,3/28,3/29

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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