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危険なSNSチャレンジが若者に大流行 ── 15歳死亡のTikTok「ベナドリル・チャレンジ」とは?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

アメリカの15歳の少女がSNS上の挑戦企画にチャレンジして死亡したと、USサンフォーブスなどが報じた。

亡くなったのは、米オクラホマ州の10年生(アメリカの高校2年生)、クロエ・フィリップス(Chloe Phillips)さん。フィリップスさんは動画投稿アプリ、TikTok(ティックトック)上で、ベナドリル(Benadryl)を過剰に摂取して幻覚を楽しむ挑戦企画「ベナドリル・チャレンジ」に参加し、オーバードース(過剰摂取)により、8月21日に死亡した。

ベナドリルとは、アメリカの薬局で市販されている薬のこと。ディフェンヒドラミンの一種で、花粉などによるアレルギー症状を和らげる薬として服用されている。大量に摂取すると発作が起きたり、心臓の拍動が不規則になることで血液の送り出しが正常にできない問題を引き起こす可能性があるという。

ベナドリルは、アメリカの薬局ではアレルギーコーナーで販売されている。(c) Kasumi Abe
ベナドリルは、アメリカの薬局ではアレルギーコーナーで販売されている。(c) Kasumi Abe

フィリップスさんがどのくらいの量のベナドリルを服用したのかは明らかにされていないが、オクラホマ毒薬情報センターのディレクター、スコット・シェーファー氏によると、「幻覚を引き起こすことができる用量は、生命に危険とされる用量に程近い」という。

ヤフー!ライフによると、テキサス州クック子ども医療センターの7月の発表として、十代の若者が1週間のうちに3人も、ベナドリルを過剰摂取して病院に運ばれたケースが報告されたという。「TikTokのビデオに触発され、ベナドリルを14錠服用した」とする14歳のケースもある。

これまでTikTokやYouTube上で行われてきた危険なチャレンジには、ほかにもさまざまなものがある。香辛料のナツメグを水に混ぜて飲む「ナツメグ・チャレンジ」や、シナモンを口に入れ、水を飲まずに我慢する「シナモン・チャレンジ」などだ。日本の有名ユーチューバーも挑戦しているが、いずれもアメリカの専門家により危険性が指摘されている。

SNSでは「チャレンジ」流行り

昨今はTikTokに限らず、Instagram、Facebook、YouTubeなどで、世界中の人々がさまざまなチャレンジ企画に参加している。そして、その多くの参加者はティーンネイジャーだ。

チャレンジ企画と言われるものには、友人からバトンとして受け取り自分もチャレンジするものと、バトン形式ではなく他人のチャレンジに触発されて自らも挑戦しその様子をSNSに載せるものがある。いずれもゲーム感覚で挑戦されることが多く、SNSで瞬く間に拡散されるのが特徴だ。

チャレンジ企画だからといって、決して危険なものばかりではない。中には、壮大な目的を掲げて行われるものもある。

最近では、好きな本の表紙の紹介リレー「ブックカバー・チャレンジ」や、素敵な女性のモノクロ写真の紹介リレー「ウーマン・サポーティング・ウーマン・チャレンジ」が話題になったばかり。これらは、読書の良さを啓蒙したり、トルコで起こった家庭内暴力で死亡した女性を追悼したりする目的で始まったのだが、本来の目的を知って参加した人はどのくらいいただろうか。

2014年に世界中で話題になった「アイスバケツ・チャレンジ」も、記憶に新しいことだろう。これは、難病である筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の患者の支援目的で始められたチャリティー活動だった。多くのセレブが参加したこともあり、日本の有名人を含む世界中の人々が参加し、瞬く間に拡散された。

しかし拡散されていく過程で、遊び感覚や暇つぶし、ただの馬鹿騒ぎで参加する人々も増えていき、本来の目的が徐々に見失われてしまったのも事実だ。また、指名されることでチャリティー活動への参加を「強要された」と感じる人も少なくないなど、どんなチャレンジ企画にも賛否両論がつきまとう。

若者にとって「チャレンジ」がなぜ危険か?

筆者も、SNS上のチャレンジ企画でバトンを渡されることはたまにある。他人が行うチャレンジに対して否定的な気持ちはないが、自分が参加、つまりバトンを受け取って友人に渡したり拡散することにはまったく興味がないため、バトンを受け取る前にすべてお断りさせていただくポリシーを通している。

お断りの理由をきちんと説明することで、バトンを渡してきた人は私の気持ちを理解してくれるので、特に問題にはなっていない。

しかしながら、参加したくなくても断りにくいと考える人も少なくないだろう。特に大切な友人や仕事関係者からのバトンは断りにくいというのも理解できる。また若いころは誰でもいろんなことを過信してしまいがちだし、危険への恐怖心も少ないもの。「この薬は眠気や疲れを簡単に取ってくれる」とか「ほかの人がやって問題なかったから、自分も問題ないはず」などと考えがちだ。ティーンネイジャーがいる家庭は、心配の種の1つだろう。

亡くなったフィリップスさんの遺族は、「このような危険なゲームに子を参加させてはならない。皆さんには2度と同じ過ちを犯してほしくない」と記者団に語った。デジタルネイティブの世代がこれからの時代で台頭するなか、周囲の大人がオンライン&オフラインを含む子の行動に関心を寄せ、時に目を光らせていくことがこれまで以上に求められているのかもしれない。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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