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NY州が全米ライフル協会に解散要求 銃の悲劇なんて気にしない金の亡者はどこまでも腹黒かった

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
インディアナ州での全米ライフル協会年次総会(2019年)で銃を手にする少年。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨーク州の司法長官は6日、全米ライフル協会(以下NRA)による資金の長年にわたる不正使用が州法と連邦法に違反しているとし、同協会の解散を求める訴訟を起こした。

司法長官のレティシア・ジェームズ(Letitia James)氏は、NRAの幹部が不正に数十億円規模の資金を着服し、私腹を肥やして散財し、団体に対しての人々の信用を損ねたと告発している。

これに続き、ワシントンD.C.のカール・ラシーン(Karl Racine)司法長官も、同様の理由でNRAを提訴した。

特に問題とされているのは、NRAのウェイン・ラピエール(Wayne LaPierre)副会長など4名の幹部が家族や友人らを伴って度重なる贅沢三昧をしてきたことだ。例えば、度々プライベートジェット機での豪華絢爛な海外旅行、理事会の承認を得ずに自身に発行した1700万ドル(約17億円)と180万ドル(約2億円)の雇用契約書、ガールフレンドへ100万ドル(約1億円)の用途不明の支払いなど、汚職の一部だけ聞いても「やりたい放題」だ。この結果、2015年には約2800万ドル(約29億円)の黒字だったのが、18年には3600万ドル(約38億)の赤字に転落し、3年間で6400万ドル(約67億円)の損失をもたらしたされる。

ジェームズ氏は民主党派で、18年の中間選挙運動中にNRAを「テロリスト組織」と名指しし、調査を誓った人物だ。調査は翌19年2月から行われ、今回の訴訟はその調査結果を基にしたもの。「NRAは影響力が非常に大きいため、何十年にもわたって不正行為が暴かれずにきた。このような詐欺集団は解散しなければならない」と、ジェームズ氏は声明を出している。

これに対してNRA側は「この訴訟は政治的な動機によるもので、(銃の暴力に対して銃で)身を守るための権利に対する攻撃だ」とし、反訴を提起した。

バージニア州に本部を置くNRAは、もともと1871年に非営利団体としてニューヨークで創設した(ニューヨーク州の司法長官がNRAに対して規制権限を持っているはこのためだ)。以来、500万人以上の会員を擁し、アメリカでもっとも影響力のある銃の権利を主張するロビー活動団体、保守派圧力団体として知られる。この国でどれだけ不条理な銃撃事件や乱射事件が起こり、罪のない人々が命を落とそうとも銃規制が一向に進まないのは、NRAが政権と癒着しているからだ。

今回のニュースを聞いた人々からは、さまざまな声が聞こえてきた。「NRAは長年、数々の法律違反をしてきた犯罪者により運営されているマンモス組織だ」とジェームズ氏を擁護する人。また、NRAが銃の権利を擁護する唯一の団体ではないことから「おそらくそんなことはないだろうが、ここが解散したところでガン・オーナーズ・オブ・アメリカ(GOA)などほかにも強力な団体がある。NRAただ1つの問題だけではない」。また「損失額について取り返せることがあっても、NRAやこの国から銃を取り上げることは絶対にできないだろう」などだ。

また、修正第2条(合衆国憲法で保障されている武器保有権、1791年成立)については支持するがNRAの支持者ではないという年配の男性はこのように語った。「私の幼少時は各家庭に銃器が普通にあった。第2次世界大戦後、男にとって身近なものとなり、攻撃や防衛用から娯楽性の高いものへと取って代わった。NRAは責任ある所持の重要さを十分に伝えることなく、銃器の拡散だけに専念してきた。銃器は携帯電話や車とは違う。誰もが必要としているものではない」と、NRAが利益だけを追求するがために、闇雲に銃が拡散されてきたことに異議を唱えた。

NRAの長年の盟友であるトランプ大統領は、今回の訴訟についてNRAを擁護する姿勢を見せている。多額の損失額は、これまで起こった数々の訴訟に対する資金として充てられたものだとし、ホワイトハウスで記者団に対しこのように語った。「(訴訟は)まったくひどい話だ。NRAは本社を(今のワシントンD.C.近くからより大きな銃社会である)テキサスに移すべきだろう。ここでの人々の非常に素晴らしく美しい生活を引率してはどうだろうか」。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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