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NYファッションウィークで開花した21世紀最先端の「持続可能ブランド」 って?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c) Kasumi Abe

2月3日から12日まで開催中の「ニューヨーク・ファッションウィーク」。市内ではさまざまなファッションショーが催され、ファッション関係者やモデルなど世界中のおしゃれピープルが一堂に集まっている。

ニューヨークが今年3月より小売店でのプラスチック製レジ袋を廃止し本格的なサステイナブル都市へ新たな1歩を踏み出すというこの時期、数あるショーの中でもあるブランドによる体験型ショーが注目を集めた。

廃棄ゼロに取り組みながら循環するサステイナブル(持続可能)ファッションを創作する前衛的デザイナー、ダニエル・シルバースタインと、彼のブランド、Zero Waste Daniel(ゼロウェイスト・ダニエル)だ。

会場にて、デザイナーのシルバースタイン氏(真ん中)。(c) Kasumi Abe
会場にて、デザイナーのシルバースタイン氏(真ん中)。(c) Kasumi Abe

彼は縫製工場と提携し、不要になった裁断後の生地やスクラップ(捨てられる素材)を利用して洋服づくりに取り組みながら、環境に優しい社会の大切さを謳っている。

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昨年春に大阪の阪急うめだで開催したイベントも大盛況だった。

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ランウェーのないショー

ゼロウェイスト・ダニエルの今回のショーは、マンハッタンのイマーシブ(没入)体験型ミュージアム、Arcadia Earthで行われた。

モデルエージェンシー、Role Models Managementとのタイアップイベントで、会場で演じるのはニューヨークで活躍するハイスペックのモデルたち。

彼らが役者に扮し、深刻な地球温暖化や海洋汚染、ファッションが与える影響について訴えかけ、参加者は館内15のセクションを歩きながら楽しく学べるという試みだった。あるときはファッションのお葬式に参列したり、あるときは紙芝居形式で環境を守る重要性について学んだり。

棺桶に入った使い捨てされたファッションを悼む役者。(c) Kasumi Abe
棺桶に入った使い捨てされたファッションを悼む役者。(c) Kasumi Abe
大量のレジ袋で作られたモニュメントの展示。「使い捨ての文化でしたか?」。(c) Kasumi Abe
大量のレジ袋で作られたモニュメントの展示。「使い捨ての文化でしたか?」。(c) Kasumi Abe
「この洋服試着しますか?え、見えませんか?」と参加者に問いかける。(c) Kasumi Abe
「この洋服試着しますか?え、見えませんか?」と参加者に問いかける。(c) Kasumi Abe

なぜファッションに持続可能が必要とされるのか

ここでなぜ、サステイナブル(持続可能)ファッションが今注目されているのか、考えてみたい。ゼロウェイスト・ダニエルの取り組みとは対局にあるのはファストファッションだ。

90年代後半以降、安くて大量生産されたファストファッション全盛の時代だった。しかしなぜこんなに安い価格が実現できるのか考えてみたことはあるだろうか。まず1つは、生産地の劣悪で公正ではない労働環境が問題になっている。また質が悪くて長持ちしない使い捨て衣類は消費サイクルも早い。高級ブランドとて、値下げ処分をしなければ大量の売れ残りが出る。そのようにして大量の衣類が焼却処分され、環境に与える汚染問題は深刻だ。

それらの問題により、ここ数年でさまざまな企業がサステイナブル(持続可能)ファッションへ取り組み始めた。100%再生可能でリサイクルできる原料への切り替えに取り組んでいる「パタゴニア」、プラスチック製ボトルを洋服に再利用する人気アパレル「エバーレーン」、高級ブランドの買取りで循環システムを作り上げた「マテリアルワールド」など。ゼロウェイスト・ダニエルもそんな流れで、2017年に誕生したのだ。

会場に設置されたメッセージボードに見入る参加者。(c) Kasumi Abe
会場に設置されたメッセージボードに見入る参加者。(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

中には高性能で便利な商品を生み出し、真剣に環境や労働問題に取り組む企業もあるので、ファストファッションを全否定するつもりはない。でも安くて長持ちしない衣料が手元にあるとすれば、それらはどこでどのような人々によりどのような環境とプロセスで大量生産されているか、想像してみるのも悪くない。

多くの人が少し見方や意識を変えてみるだけで、世界は少しだけ良い方向へ舵を切る。ゼロウェイスト・ダニエルのショーは、そのことを楽しみながら教えてくれるものだった。

レジ袋の洞窟で、レジ袋でできたドレスに身を包んだ参加者。(c) Kasumi Abe
レジ袋の洞窟で、レジ袋でできたドレスに身を包んだ参加者。(c) Kasumi Abe

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ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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