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「さようならトランプ」地元で不人気の大統領 愛するニューヨークを惜しまれずに去る

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
五番街トランプタワー前をオバマ街にしたい人々に、堪忍袋の緒が切れたか。(写真:ロイター/アフロ)

世界最大規模のハロウィンパレードでニューヨークが活気付いていた10月31日。トランプ大統領は午後9時30分過ぎ、何やら意味深なツイートを発信した。

1600ペンシルベニア・アベニュー(ホワイトハウスの住所)は愛着がわいている場所で、MAKE AMERICA GREAT AGAINのために(「アメリカを再び素晴らしい国に」という同大統領のスローガン)、願わくはこの先5年間もそこを拠点にする予定だが(2020年大統領選で再選されるだろう、という示唆)、永住地として、私は家族と共にフロリダ州のパームビーチを選んだ。

私はニューヨークとそこに住む人々を、今もこれからも大切に思っている。だが残念なことに、ニューヨーク市やニューヨーク州に毎年数百万ドル(日本円で何億円相当)という多額の税金を払っているにも拘らず、私は市長や州知事にとてもひどい扱われ方をされてきた。

本当はこのような決断をしたくはなかったが、最終的に良い解決策のためだ。私は大統領として、ニューヨークとそこに住む素晴らしい人々のためにある。これからも私の心の特別な場所にニューヨークはある。

何やら、長年連れ添った恋人に別れを告げるかのようなセンチメンタルな表現で、我が愛する地元から転居する決断に至ったことを匂わせた。

ニューヨークはトランプ氏にとって特別な街だった。

マンハッタン区の隣のクイーンズ区で生まれ育ち、1983年にマンハッタン区五番街に富の象徴、トランプタワーを建設し自身もそこに居住。リアリティ番組『ザ・アプレンティス』に出演するなどし、スターにのし上がった。過去に6度の破産を経験したものの、名実共に世界一のビジネスマンとして大成功した。アメリカンドリームを後押ししたこの街にあるトランプタワーは、「終の住処」になるはずだった。

同氏が1987年に出版した『The Art of the Deal 』でも「おそらく理にかなっていないかもしれないが、私は、世界の中心マンハッタンが居住には最高の場所だと信じていた」と、ひとかたならぬ地元への思いを語っていた。

しかしそれは、もはや過去の話だ。

ニューヨークタイムズ紙は10月31日、「生まれながらのニューヨーカー・トランプが、フロリダに居住宣言」という見出しでトランプ大統領の「心変わり」を報じた。

「フロリダ州のパームビーチ郡巡回裁判所に提出された書類によると、トランプ氏は9月下旬、マンハッタンからパームビーチに自宅の住所変更をした」と同紙。

パームビーチには、トランプ氏のリゾート「マー・ア・ラゴ 」(Mar-a-Lago)がある。過去には安倍首相夫妻も招待した特別な場所。トランプ夫妻がこのほど「本拠地宣言」を提出したのは、その敷地内にある豪邸だ。

大統領に選出されて以来、五番街のトランプタワー前や周辺には、トランプ派の歓声に加え反対派の抗議活動が頻繁に行われるようになり、連日人も車も大渋滞を引き起こしている。トランプ氏にとって気分が良いことではなかっただろう。

転居の理由はそれらに加え、大統領側近からの情報によると上記ツイートにもある「税金関係」だという。

所得税も相続税もなく、年間通して温暖なフロリダ州は、アメリカ北東部に住む富裕層には「避難地」として人気の場所だ。

ただし今後も、トランプタワーは別宅としてそのまま残すことになるだろう。ニューヨーク州の法律では、年間184日以上住む場合、所得税を申告する必要があるが、NBCニュースによると「大統領になって以降、トランプ氏がトランプタワーで過ごしたのはたったの20日間」(マー・ア・ラゴは99日間)だから、今後もうまく使い分けて各地に住むのではないだろうか。

「いい厄介払いだ」

ニューヨークタイムズ紙の記事に対して、ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏はトランプ大統領をタグ付けし、このようにツイートした。

いい厄介払いだ。

どちらにせよ、トランプがニューヨークで(多額の)税金を払ったようには思えないが...。

フロリダ州さんよ、後は頼んだ。

ニューヨーク市のデブラシオ市長もこのように参戦。

出てお逝きなさい。

トランプ氏が過去(近い将来も)世話になったフロリダの善良な市民へ、深く哀悼の意を表します。

デブラシオ市長の妻、マックレイ氏まで出て来る始末。

そうすると、翌日になってトランプ氏は再びツイートし、応酬合戦となった。

私はニューヨークを愛している。しかし、アンドリュー・クオモ州知事やビル・デブラシオ市長といった現在のニューヨークのリーダーのもとでは、この街が再び素晴らしい街になることはない。クオモは検察官を武器に使い随分と汚い仕事をし、人々がニューヨークに住みたくないと思わせる元凶になっている。

近隣の他州が税額を削減し、数千人の雇用を創出しながら金(石油)の採掘をしている一方で、ニューヨーク州は税金とエネルギーコストが高過ぎるため、アップステート(州北部)を中心にうまくいってない。ニューヨーク市内は街がますます汚くなり、治安が悪化し、警察が軽視され扱いがひどい。それらは大事にされ、尊敬され、愛されなければならないのに。 ニューヨークを去っていく人の数が多過ぎる。偉大な政治家であれば、この素晴らしい市と州が繁栄することを誰よりも望んでいる大統領と連邦政府と協力していくだろう。 ニューヨークを愛している!

デブラシオ市長はこれに対して、

市内の犯罪は記録的に低く、雇用数は記録的に高い。あなたの引っ越しの発表を聞いて、ニューヨーカーにとってこれほど良い時間はないでしょう。

参照記事:

トランプ氏とデブラシオ氏の、過去のツイッターバトル。

大統領選に出馬表明したNY市長にトランプ大統領「国をぶち壊す気か?」と野次合戦

今回のツイッターで「ニューヨークへの愛」を強調したトランプ大統領。この街を愛しているのはメラニア夫人もそうだ。夫人は、トランプ氏が大統領に選ばれた際、息子のバロンくんの学校を「言い訳」に、しばらくニューヨークに居座るほどだった。

クオモ氏の言う高額の税金の信憑性について、ニューヨークタイムズ紙は「トランプ氏は自身のタックスリターン(確定申告)を発表したことがないため真偽は不明」としながら、ニューヨークは税金が高いことから「1010万ドル(10億円以上)を超える不動産に対して16%もの税金を徴収するため、この街から転居届を出すことは、トランプ氏の死後、相続する家族にとって大きな節税対策になる」。

これほど多額の節税となると、愛するニューヨークから遠く離れたフロリダ暮らしは、トランプ氏にとっても夫人にとっても、まんざらではないだろう。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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