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大統領選に出馬表明したNY市長にトランプ大統領「国をぶち壊す気か?」と野次合戦

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ビル・デブラシオNY市長と、妻のシャーレーン・マクレイさん。(写真:ロイター/アフロ)

ニューヨークのビル・デブラシオ(Bill de Blasio)市長が5月16日、2020年の米大統領選に出馬表明した。同市長は「打倒トランプ」と鼻息が荒く、動画投稿サイトYouTubeを使ってこのような出馬メッセージを送った。

「私はニューヨーカーです(ニューヨーク生まれ/育ちの人が誇らしく名乗るときに使う、強さと団結の合言葉)。トランプ政権をずっとこれまで見てきました。金持ちだけがより金持ちになり、国民は行き場を失っています。(移民親子引き離しのような)非人道的な政策は今すぐやめなければならない。苦しんでいる家族のために、今すぐ国境近くに弁護士を派遣しなければ。私は大統領として、労働者を使い潰すようなことはしない。これまでアメリカ最大の都市で市長としてやってきたことと同じように実践します。トランプ政権を阻止しなければ。今こそワーキングピープル・ファースト(労働者優先)の時です。私、ビル・デブラシオは大統領に立候補します」

これに対して同日夕方、今度はトランプ大統領が自身のツイッターを通して、早速応戦した。

わざわざタグ付けし

「@BilldeBlasio はニューヨークの史上最悪の市長だ。彼はすぐに脱落するだろうよ」

「デブラシオはニューヨーク市をぶち壊した。今度は国をぶち壊すつもりか? 民主党は実に妄想的だな!」

またトランプ大統領はそれでは飽き足らず、皮肉たっぷりのビデオメッセージも送りつけている。

「史上最悪のニューヨーク市長が大統領選出馬なんて信じられないことだ。ジョーダンだろ? こんなこと予想もしなかった。大統領はまず無理だろうよ。もし高い税金を払ったり、犯罪率が高い場所に住みたいのなら(大統領として)最適さ。ニューヨークに戻って市長として残りの任期をまっとうするのが関の山だろうけど、まぁがんばってくれたまえ」

ビル・デブラシオNY市長とは?

その人物像

ビル・デブラシオ氏は、ニューヨーク・マンハッタン生まれの58歳。同市の第109代市長として2014年に就任し、現在二期目。民主党の中でもリベラル派とされている。ニューヨーク大学とコロンビア大学を卒業後、チャーリー・ランジェルやヒラリー・クリントンのキャンペーンマネージャーを務め、2002〜09年ニューヨーク市議会のブルックリン(39区)管轄の政治家としてキャリアをスタート。2010〜13年市政監督官としても活動してきた。

「飲食業に従事する人や町工場で働く人たちはニューヨーク市を支える屋台骨だ」という冒頭のビデオメッセージにもあるように、労働者側や庶民に寄り添うタイプの政治家として知られる。市長になってからの主な功績は、最低賃金を昨年2度も引き上げ、12月31日の時点で最低賃金15ドル(約1,630円相当)を達成した。また、有給病気休暇の保証や(精神疾患も対象内とした)総合ヘルスケアの保証、プリケー(Pre-K:幼稚園に入る前段階のプログラム)の無償化などの実績も残している。

プライベートでは、アフリカ系アメリカ人の妻シャーレーン・マクレイさんと仲睦まじい様子が、たびたびメディアを通じて伝わってくる。2人の子どもにも恵まれ、良き夫良き父として知られる。

ただ、市長選で掲げた所得格差の是正、教育改革、医療保険制度拡充などの一環で、高所得者層の増税を掲げ高所得者層から反感を買ったり、警察による職務質問の見直しなどで元ニューヨーク市警本部長のレイモンド・ケリー氏が反発し警官の士気が下がり、結果的に犯罪率上昇につながった。

また、低所得者層向け住宅の建築遅延などもあり、「威勢はいいが有言実行しない市長」というレッテルをはられているのも事実。実際のところ、市民からは「(ニューヨークの犯罪率を激減させることに成功した)ジュリアーニ前市長の方がよかった」という声もある。

この日のトランプ氏との野次合戦では、どちらも強力な支持者はほとんど出てこず。

「最悪の大統領が何を抜かしている?」「トランプ大統領、あなたこそ長く続かないのでは?」とトランプ不支持者からのコメントに加え、市長に対しては「ニューヨークをかき回した人物が大統領選?」「出馬表明したYouTubeのチャンネル登録者数が70人少しっていうのが、人気のなさを物語っている」と嘲笑したり揶揄する声が、双方から聞こえてきた。

2020年の大統領選も荒れ模様となる予感が・・・。

September 21, 2019 Updated:

デブラシオ氏は、民主党指名争いから撤退を表明した。各世論調査での支持率が1%に達することがなく、候補者によるテレビ討論会への参加資格を得られなかった。遊説のため長期間にわたり市長室を離れることも批判されていた。記事

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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