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在住者目線で「うまい」と思ったサッカー女子優勝会見スピーチ「今こそ賃金格差をなくそう」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ニューアーク空港に降り立った米女子サッカー選手。(写真:ロイター/アフロ)

2019年FIFA女子ワールドカップで、アメリカがオランダを2対0で破り、2大会連続4度目の優勝を果たした。

1,600万人が画面にかじりついたといわれる7月7日の決勝戦。優勝が決まりニューヨークでも歓喜に包まれた。(c) Kasumi Abe
1,600万人が画面にかじりついたといわれる7月7日の決勝戦。優勝が決まりニューヨークでも歓喜に包まれた。(c) Kasumi Abe

選手らは翌日ニューアーク空港(ニュージャージー州)経由で帰国の途に就き、10日午前9時30分からニューヨーク市庁舎前で表彰セレモニーと優勝パレードを行った。

パレードを見に来た群衆の中には、「こんな機会はめったにないから学校を休ませ、この子の記憶に一生残るようなものを見せたい」と、子づれで参加している人も多数見受けられた。

選手はこの日、スーツ着用の堅苦しい記者会見...ではなく、「世界チャンピオン」と書かれたラフなTシャツを着て、表彰セレモニーの壇上に現れた。感極まって踊りだしたり、クイーンの『We Are The Champions』を大合唱したり、シャンパン片手にフロート(パレードの台車)に乗り込んだり...。

これらの様子を眺めながら、筆者は少し前にインタビューしたニューヨークで働く寿司職人が「アメリカというところはエンターテインメントの国だと(寿司カウンター越しでさえ)ひしひしと感じる」とコメントしたのを改めて思い出したのだった。

エンタメとは、なにも派手でエキサイティングなコンサートやブロードウェイミュージカル、スポーツの場だけではない。何事に対してもノリが良く、徹底的に楽しむ血がアメリカの人々に流れているからこそ、このような祝いの場で躊躇なく正直に、体全体で喜びを表せるのだろう。

賃金格差問題をアピールする場に

この日の祝賀イベントは、ただのお祭り騒ぎだけではなかった。今年3月、アメリカ女子代表(USWNT)の28選手は米サッカー連盟を、イコールペイ(男女賃金格差の是正)のために提訴した。女子代表選手は男子代表選手(USMNT)よりも多く勝ち、多額の収益を生み出しているのに、十分な賃金を得られていないのは不当な差別だというのが、USWNT側の主張だ。

『ワシントンポスト』紙などが報じた訴訟内容は、一流の女子選手が稼ぐ年収は一流の男子選手のわずか38パーセント足らずで、格差は16万4,320ドル(約1,789万円)にも上るという。2017年にはその差が少し縮まったものの、未だに大きな賃金格差がある。

ワールドカップの男女の収入と賞金には、これだけ開きがある。(CNNの報道より)
ワールドカップの男女の収入と賞金には、これだけ開きがある。(CNNの報道より)

そんな背景がありつつ、この日の表彰セレモニーのスピーチは、エンタメ性を出して喜びを表しながら、真意もうまく主張しているのが印象的だった。

共同キャプテンで大会MVPと得点王の個人2冠を達成したミーガン・ラピーノ(Megan Rapinoe)選手は、壇上で踊ったかと思えば、その後真面目な面持ちで、チームメイト、ファン、大会関係者、そしてパレードのために車両通行止めにしてくれたニューヨーク市に対して謝辞を述べた。そして、スピーチにアメリカらしいジョークをいくつか添えながら、聴衆を引き込んだ。

感極まって放送禁止のFワードで「ニューヨーク最高ー!」と叫び、生放送されるなど、度が過ぎるシーンもあったが...。

ラピーノ選手のスピーチの概要

チームにはピンクの髪、紫の髪、タトゥーをしている子、ドレッドヘアの子、白人、黒人、ストレート、ゲイ(同選手は同性愛者のため、大きな笑いが起きる)、いろんな人がこのチームにはいて、誇りに思っている。大統領選出馬より、このチームといる方がいいわ。(大統領選に出馬するデブラシオ市長も爆笑。注:同選手は反トランプ派を公言している)

(途中割愛)

よりよい人になりましょう。憎むより愛しましょう。発言するばかりではなく、耳を傾けましょう。ここにいる人もいない人も賛同する人も反対する人も私たち全員に、コミュニティを、周囲の人々を、世界を、よりよい場所にするための責任があります。私たち選手がよいプラットフォームになるから、みんなで話し合い、協力し合い、できることをやりましょう。自分の固定概念から一歩抜け出し、さらに大きな自分になりましょう。

優勝会見は大きなメッセージ性のある内容で締めた。

壇上ではほかにも、ニューヨーク州のクオモ知事が「男女均等はニューヨーク州の法律で定められているものだ*」と、デブラシオ市長は「これだけの功績を残したのに格差があるのは受け入れられない。今こそ変化のときだ」と、女子チームを支持することを表明した。

このようなスピーチの手法や問題提起のアプローチは日本ではなかなか真似できないものかもしれないが、喜びを派手に表現したり、真面目なスピーチにジョークを添えたり、重いトピックスをここぞとばかりにうまく持ち出すのは、さすがはアメリカらしいと思った。みなさんはどう思われただろうか?

これらさまざまな議論があちこちで沸き起こりながら、アメリカの賃金格差=真の男女平等への戦いはこれからも続いていく。

  • 今月10日、同知事は平等賃金法(同一労働同一賃金)にサインをし、施行したばかり

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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