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NYいきなりステーキ失速とペッパーランチ初出店。「このままで終われるわけない」(社長インタビュー)

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
ペッパーランチのオープニングセレモニーで起死回生を誓った一瀬社長(真ん中)。

立ち食い、チップ不要、安い早いうまいのJステーキ...と、ニューヨークであっという間に話題になった「いきなり!ステーキ」。この2年間、飛ぶ鳥を落とす勢いで店舗拡大していった。

2017年に海外1号店をマンハッタンにオープンして以来、少しずつ11店舗まで増やし、ビジネスは好調かのようにみえたがそんな矢先、今年の6月までに9店舗をクローズすることが発表された。いきなり!ステーキは2店舗に縮小し、ほか2店舗は同じ傘下の「ペッパーランチ」に業態変更して、再出発となる。

3月21日、ペッパーランチのニューヨーク1号店がマンハッタンのミッドタウン(いきなり!ステーキ跡)にオープンした。オープニングセレモニーでは、運営会社ペッパーフードサービスの創業者であり、代表取締役社長の一瀬邦夫氏らがテープカットを行った。

(左から)アメリカ代表の川野社長、Empire Steak Houseオーナーのシナナージ氏、一瀬社長、TICグループの八木社長、ナスダックのヴァイスプレジデント、ウィックス氏。
(左から)アメリカ代表の川野社長、Empire Steak Houseオーナーのシナナージ氏、一瀬社長、TICグループの八木社長、ナスダックのヴァイスプレジデント、ウィックス氏。

オープニングセレモニーには、二軒隣の人気ステーキハウス「Empire Steak House」のオーナー、シナナージ氏もかけつけた。シナナージ氏は「同志としてステーキ業界を一緒に盛り上げたい」と歓迎ムード。

  • 2店は同じステーキ屋だが、ステーキチェーンとステーキハウスなので、雰囲気や価格帯などが異なる。
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「このままで終われるわけない」

オープニングによせて、運営会社のペッパーフードサービス、一瀬邦夫社長に単独で話を聞いた。

── ペッパーランチの開店おめでとうございます。

ありがとうございます。前回もお話しましたが、17、8年前にロッキー青木さんにペッパーランチの話をしたときに「ステーキのファストフードだね。ニューヨークに出せるよ」と言っていただいて以来、いつか出したいとずっと思っていました。いきなり!ステーキがパッと(勢いが)出てきたので順番が後になりましたが、今回やっと念願がかないました。

── DIYスタイルのファストフードステーキという触れ込みですね。自分で好みの焼き加減に仕上げられるのですか。

そうです。うちが特許を取っているアルミ製の特殊鉄皿とIH(電磁)調理器を、日本から持ってきました。1分もかからないうちに260°Cまで急速加熱でき、20分ほど80°Cに保ち、 自動的にスイッチが切れます。これにより好みの焼き加減に自分で仕上げることができ、最後までアツアツが食べられます。

Hamburg Steak With Egg($12.50)、Small Salad($3)。ステーキやハンバーグなどはこの鉄皿で自分で焼くスタイル。
Hamburg Steak With Egg($12.50)、Small Salad($3)。ステーキやハンバーグなどはこの鉄皿で自分で焼くスタイル。

── 改めてお聞きしたいのですが、いきなり!ステーキとペッパーランチは、日本と海外それぞれ何店舗ずつあるのでしょうか。

いきなり!ステーキは日本で428店舗。昨年202店舗出して、今年は210店舗出そうと思っています。ただ日本は狭いからずっと同じようなスピードで増やすことは考えていません。海外はニューヨークだけですが、今後はアジア方面に増やす予定です。

ペッパーランチは日本で165店舗。海外はシンガポール、インドネシア、フィリピンなど16ヵ国出店していて、今日オープンした店も含めると海外は313店舗です。アメリカはカリフォルニアに2店舗すでにあって、ニューヨークはここが初。マンハッタンのチェルシー地区に今年の6月、もう1店舗出すことが決まっています。

── ペッパーランチのネーミングについて、アメリカではランチ屋さんと勘違いされる心配はなかったですか。

僕もそう思ってたし、日本でもそういう風な意見が多かったのですが、アメリカ人に聞いてみると「とてもいいネーミングだ」「グッドブランドネームだ」って言ってくれます。こちらにはブレックファーストメニューを夜まで食べられる店があるくらいだし、ペッパーランチだからランチオンリーと勘違いする人はいないんですって。言葉の響きとして、リーズナブルで安く食べられるという店のコンセプトにとても合っていると思っています。

── いきなり!ステーキが11店舗から2店舗に縮小というのを聞いたとき、センセーショナルに感じました。敗因は何だと思われますか。... そもそも「敗因」と表現してよいものでしょうか。

はい。僕がミスリードしたって自分で認めています。狭いエリアの中に一気に出しすぎちゃいました。日本で一気に出店してうまくいったので、こちらでも同じようにやったのが裏目に出ました。僕のうぬぼれがあったと思います。大きく反省しています。

── やはり、アメリカと日本のビジネスは違いますか。

ビジネスは結局人がやるわけですが、人や考え方が違いますね。言葉の壁など難しい面がありますね。賃料も高いですし。

また本来目指していた、早い安いうまいの「早い」がうまくいかなかったのもあります。

この経緯として、ニューヨークのいきなりは、はじめのころ(日本式の)チップ制ではなかったのですが、少しして周りの人から「こちらではチップ制が当たり前。チップ制にしないとよい従業員がきてくれない」とアドバイスをされました。そこで途中からチップ制にしたのですが、それによって(日本式の)レジでのお会計から(アメリカ式の)テーブル会計に変更しました。ところが肉マイレージカードを持っている方は、そのためにレジに行く必要がありそこで渋滞が起きて、結局時間がかかってしまうことに。

シンプルであるべきプロセスが面倒くさいことになってしまった。これが、忙しいニューヨーカーの足が遠のいた理由の一つになったのではないかと思っています。

これらの反省点も含め、ペッパーランチではお店に入ってすぐにお支払いするシステムにし、チップも不要で、コンセプトはクオリティの高いおいしい商品を早く安く出す「ファストフードステーキ」にしています。

カウンターでオーダーするファストフードスタイルだが、料理はサーバーに持ってきてもらう。アメリカではやや特殊なスタイルとなる。
カウンターでオーダーするファストフードスタイルだが、料理はサーバーに持ってきてもらう。アメリカではやや特殊なスタイルとなる。

── いきなり!ステーキの残る2店舗は、売り上げが好調なお店ということでしょうか。

好調とは言えないけれども、店舗数が少なくなるわけだから、ここだったらいきなりのファンが引き続き来てくれるだろうということを期待して、残す店舗を選びました。

── ペッパーランチの店舗数は、今後ニューヨークで増やしていく予定でしょうか。

まずは最初の2店舗の様子を見て、うまくいけば増やしたいと思っています。

── いきなり!ステーキは今後、アジア方面に展開されていくのですね。

はい。台湾進出が3店舗決まっていまして、アジア、東南アジア方面にどんどん進出していきます。日本もそうですが(ステーキが)未開の国だから(ビジネスが)よかったんですよ。

日本のいきなりは好調です。全国428店舗のうち、わりと近くに出店しているところは売り上げが下がる傾向はあるけれど、これは計算の上です。日本のスタイルも少しずつ進化させています。最初は1人のお客さんが多かったけど、だんだん家族づれが増えてきているので、今は全体の95%が着席スタイルです。また、テーブルの真ん中にある仕切りもだんだん取る方向に動いています。

ニューヨーク店のテーブルにもまだ仕切りがあるけど、2〜5人くらいのグループ客が多いので、今後取っていく予定です。

── 前回のインタビューで、アメリカはステーキ業界が成熟しているとおっしゃっていました。それも難しい要素の一つになりますか。

アメリカ(でビジネス)がダメな原因は...いや、ダメだと思わない。考え方変えてまたやります! だってここにはお客さんがいっぱいいます。ファンも多く「あんな厚いフィレミニョンをあの値段で食べられるのはほかにない」と喜んでくれている人もいっぱいいますから。

── 反省を踏まえて、ニューヨークで再起をかけるということですね。

またやりますよ!このままで終われるわけないですから。

場所は、マンハッタンのブロードウェイ。
場所は、マンハッタンのブロードウェイ。

商売がうまくいけば賞賛の対象となり、少しでも転落すればさまざまなことを大袈裟に言われるのは、企業も人も人気モノにとって避けて通れぬ世の常か。

11店舗のうちの9店舗が閉店と聞けばネガティブに捉えがちだが、コップの水理論(コップの水は半分残っているのか、半分しか入っていないのか)で考えると、世界一商売が難しいとされるニューヨークのマンハッタンで計4店舗も運営し、ナスダック市場に上場も果たしている。このように大成功している日本人起業家が世界に何人いるだろうか?

社長自らの舵取りの判断が早く、ダメだと思うものに固執せず、反省を正直に認め、果敢に再起をかける姿勢には好感が持てる。いきなり!ステーキ、そしてペッパーランチのアメリカでの奮闘に今後も注目したい。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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