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寿司やラーメンに続け。日本のステーキ屋「いきなり!ステーキ」がニューヨークに上陸

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
調理カウンターで、肉の種類や重さ、焼き加減を直接注文する

アメリカの定番ステーキ、熟成肉が日本でもポピュラーになりつつある昨今、日本のステーキが「J-STEAK」として、アメリカのステーキ界に殴り込みをかけようとしている。

日本の立ち食いステーキ専門チェーン「いきなり!ステーキ」(Ikinari Steak)の初の海外店(ニューヨーク店)が2月23日、マンハッタンにオープンした。

場所について

道ゆく人も気になっている様子
道ゆく人も気になっている様子

オープンしたのは、マンハッタン区ダウンタウンのイーストビレッジ。このエリアは1990年代初頭までドラッグディーラーが横行し、ニューヨーク大学の周辺にトンがったバーや古着屋などがぽつぽつとあるようなエリアだったが、90年代半ば以降に活性化し、今では若者の街として人気がある。日本のスーパーや居酒屋、ラーメン屋なども多数あり、ミニ・ジャパンタウンとも呼ばれている。

一方、マンハッタンの主要なステーキハウスは、ミッドタウン(27丁目~58丁目あたり)と金融街(マンハッタンの南端)に集まっている。わかりやすく言えばこれらはビジネス街、つまりビジネスマンが多く集まる場所だ。平日の夕方早い時間にステーキハウスに行けば、仕事終わりのビジネスマンたちがネクタイを緩め、マティーニグラスを傾けながら熟成ステーキを楽しんでいる姿に出くわすだろう。

「いきなり!ステーキ」の周辺はステーキハウスがほとんどないので、競合店が少なくある意味有利とも言える。また在住日本人も多く集まる場所で、日本人を取り込むのも難しくなさそうだ。ただし、ステーキハウス=ビジネスマン(およびその家族)というイメージが強いため、一般の若者をどう取り込むかが、今後の成功の鍵となるだろう。

初日の様子

午後遅くだったので、まだこの時間帯は客は疎ら
午後遅くだったので、まだこの時間帯は客は疎ら

ニューヨーク店のランチ時は、チャックステーキ(300グラム)、ごはん、スープ、サラダのセットが20ドルで提供されている(ここで「ごはん」なのもミソだ。アメリカのステーキハウスでは、パンは出てきてもごはんは絶対に出てこないため)。このお得なランチセットは魅力的だったが、初日の混雑を避けるためゴールデンタイムを外し、私は午後4時ごろ到着した。

幸いにもこの時間帯は混んでおらず、すぐにテーブルにつけた。客は、アジア系の一人客やカップル、学生らしき若者が多かった。

料理やプライス

オープンキッチン
オープンキッチン
注文して、その場で切ってもらう
注文して、その場で切ってもらう
イリノイ州、Aurora(オーロラ)のアンガスビーフ
イリノイ州、Aurora(オーロラ)のアンガスビーフ

まず、テーブルにある番号札を調理カウンターに持って行き、肉の種類を選ぶ。私はメニューのトップにあるリブアイ(300グラム~、27ドル~)を選んだ。シェフにその場で肉を切ってもらい、焼き加減を指定し、テーブルに戻りペーパーエプロンをつけて待機。すると5分ほどで、鉄板に乗ったアツアツの厚切りステーキがサーブされた。

醤油ベースの秘伝ソースをかけると、肉がさらにジュージューと美味しそうな音を立てた。肉はとても柔らかくジューシーで、噛むほどにフレーバーが口の中いっぱいに広がりおいしさが増す。量的にも300グラムは食べ応えがあって大満足だった。

個人的に、アメリカの通常のステーキは食べている途中で味に飽きることがあるが、同店では別のソースやワサビ、ガーリックなども用意されており、いろんな味を楽しめる。

ちなみに、ニューヨークでステーキハウスへ行けば、平均一人100ドルぐらいはかかるのだが、同店ではステーキと赤ワインのグラスを注文し、会計は40ドルちょっとだった。近年ニューヨークを中心に飲食業界で支持されつつある「ノーチップ」制がここでも採用されており、この味のクオリティーでこの金額なら決して高くないと感じた。

余談だが、同店のすぐ近くにはラーメン屋の一風堂もあり、ラーメン1杯で20ドル弱という強気の値段にもかかわらず、もう何年もの間、長蛇の列ができるほどの大盛況。ニューヨーカーに「行く価値アリ」と認められさえすれば、「いきなり!ステーキ」の価格帯は「妥当な金額」だと捉えられるだろう。

立食スタイルについて

ニューヨークには、バーでの立ち飲みはあっても、レストランで立ち食いという文化がない。そしてニューヨーカーは斬新なもの、エキセントリックなものが大好きで、それをトレンドにしたがる傾向があるため、これまでの主流ではない「立食」、しかも「ステーキ」となると、口コミを始め、YelpなどのレビューサイトやInstagramなどのSNSで話題になること必至だ。

しかし数年前には、日本の「俺の」がニューヨーク出店計画があったにもかかわらず計画自体が頓挫したことがある。理由は不明だが、現地在住の日本人の間では「やはりニューヨークで立ち食いスタイルを導入するのは難しいと判断したのではないか」と囁かれたりもした。立食という斬新なスタイルが吉と出るか凶と出るか、関心が集まるところ。

客の反応

調理場のシェフに直接オーダーをしている客
調理場のシェフに直接オーダーをしている客

Yelpでは初日にして五つ星を獲得。YelpはじめそのほかのSNSでも、「すごくおいしかった」「ファストフードスタイルがジョイントして驚いた」「次回は、別の種類の肉を試したい」と、ポジティブな感想が目立っていた。

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同社は今年中に、アメリカで10軒増やす予定で、うち2軒は同じくマンハッタン内で場所も決まっているという。

「アメリカの肉をアメリカ人スタッフによりアメリカ人のお客様に提供し、日本流に食べていただくという、長年の夢がかなってうれしい」と、代表取締役社長の一瀬邦夫さんは初日を振り返った。

立食スタイルについて、「SNSの時代だから、(検索にひっかかり拡散される)特徴のある店であることが大切。立って食べる文化のないアメリカで勝算はあるのかと聞かれるが、日本もその文化はない。それでも日本でヒットしたっていうことはアメリカでもいけるのではないか」と語った。

レストラン激戦都市ニューヨークでは、店が1年続いたらまず成功と言われている。物価は東京の2倍と言われており、店の賃料や食材費も当然高く、商売が軌道に乗らなければ、すぐに見切りをつけるしかない。半年後には跡形もなく閉店していたなんてことは、この街では別段珍しい話でもない(ちなみに、以前この場所にあった店も、韓国系の焼肉屋であった)。

一方で大当たりすれば、寿司ブームやラーメンブームのように、Jステーキもそれらに続く食のブームになり、ニューヨークから世界中に広がっていくだろう。新たな日本食のアンバサダー的存在「いきなり!ステーキ」の今後に期待したい。

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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