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【こんまりさん単独インタビュー】「本当に大切なモノを大切にする価値観を伝えたい」

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(c) KonMari Media, Inc.

Netflixの番組『Tidying Up with Marie Kondo』(タイディングアップ・ウィズ・マリエ・コンドウ)で、アメリカでも大ブレイク中のこんまりこと近藤麻理恵さん。

2016年アメリカに居を移した彼女に、今の心境や騒動の胸の内、アメリカ生活などについて聞いた。

■ Netflixの思い出エピソード

── 番組出演オファーは、いつどのように、どなたから来ましたか?

オファーは2015年ごろです。

海外の出版をアレンジしてくださっているエージェントの方経由で、映像製作会社の方(アメリカ版の本を読んで、こんまりメソッドのファンになってくださった方)からお話をいただきました。

── 収録はいつ、どのくらいの期間におよんだのですか?

2018年の春、4ヵ月ほどかけて撮影をしました。

── 収録中の忘れられないエピソードがあれば教えてください。

撮影中は忘れられないエピソードばかりで絞りこむのは本当に難しいのですが‥‥。あえて言うならこの2つでしょうか。

◆忘れられない収録エピソード1

配信2回目のアキヤマさんのレッスンの際、あまりのモノの多さに加え、旦那さんのロンさんが初回に訪問した時に片づけに乗り気ではないような印象で、正直なところ「撮影期間中に片づけが終わらないかもしれない」と心配でした。

しかし、片づけが進むにつれて片づけの本当の意味(モノを通して自分の人生を振り返り、今後の人生について考えること)に自ずと気づいてくださり、びっくりするようなハイペースで奥さまのウェンディさんと片づけを進めてくださるようになったことです。

もちろんロンさんだけではありませんが、「片づけが人生を変えていく」ということを体現してくださったクライアントの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

(c) KonMari Media, Inc.
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◆忘れられない収録エピソード2

撮影の中盤ごろ、スケジュールのハードさと、毎日たくさんのカメラを向けられることのプレッシャーで心身ともに疲弊して、スタジオでのコメント撮影中に泣いてしまい、収録をストップさせてしまったことがありました。

私はもともとひたすら片づけが好きなだけの人間でしたし、人と話すよりもモノと話す方が好き、というくらいインドア派だという自覚がありました。もともと19歳ごろから始めた片づけレッスンも、すべて人からの紹介で続けていましたし、本を出版するまで自分が人前で話すようになるとは思ってもいませんでした。

こんな私ですから、「たくさんの人に何かを伝えるなんて」という思いが心の奥にありました(いつもではないですが、そういうループにはまってしまうことが時々あり‥‥)。

けれど、プロデューサーのヘンドさんにカメラ越しに「あなたは自分が思っているよりずっと強い」と言われてハッとし、とても励まされました。

この場面以外にも、撮影クルーの皆さん(『ハウス・オブ・カーズ』を撮影したクルーの方たち)、通訳の飯田まりえさんや、メイクさん、エグゼクティブ・プロデューサーでもある夫らと毎日のように、「この番組を最高のものにするには?」「片づけの持つ力を最大限に表現するにはどうしたらいいか」と話し合いながら、撮影期間を過ごしました。

たくさんのプロフェッショナルな方々と、お互いに全力を出し切りながら仕事をすることができたのは、私の人生にとってかけがえのない経験だったと思います。

(c) KonMari Media, Inc.
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── 配信がスタートして周りの反響はいかがですか。近所で声をかけられるようなことはありましたか?

 

配信が始まる以前から、本を読んでくださった読者の方からときどきカフェなどで声をかけられることはあったのですが、配信後はその頻度が上がりました。

スーパーで買い物をしているとき、10歳の男の子に「ファンです」と声をかけられたのはびっくりしました。

── アメリカ人に片づけを指南する際に難しいと感じることは何でしょうか?

日本では言わずもがなで伝わることも、海外の場合はきちんと言葉にして伝える必要があるということは、アメリカでの片づけレッスンを経験して感じたことです。

たとえば「捨てるモノに感謝をしましょう」と言った時に、日本人の方の場合は「そうですね」ですんでいたのですが、アメリカの方の場合ですと「どうしてですか?」と理由を聞かれたりなどします。

■ 幼少から興味があったお片づけ

── 片づけに興味がわいたのは、そもそも何がきっかけだったのでしょうか?

母が定期購読していた『ESSE(エッセ)』が面白そうで、家事に興味を持つようになりました(母よりも先にパッケージをやぶいて読み漁っていました)。

また、母は専業主婦なのですが、家事を楽しそうにしていたというのも理由としてはあると思います。幼少のころは、片づけだけでなく、掃除・料理・裁縫など家事全般に興味があり、片づけに本格的にシフトしたのは中学生以降です。

『捨てる!技術』(宝島社・辰巳渚さん著)を読んで、本格的に研究を始めるようになりました。

■ アメリカでの生活は?

(c) KonMari Media, Inc.
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── お住まいは現在アメリカですね。いつごろから、どちらの街に住んでいますか?

引越しをしたのは2016年で、今はロサンゼルスを拠点に活動をしています。

── アメリカでの生活はいかがですか? 異国での生活ですから最初のころは特に困ることがあったでしょう。

英語力もまだまだですし、和食が日本と同じようには手に入りにくく、おうちの設備がよく壊れる、など日本とは勝手の違うことがあります。でも周りの方々のサポートもあり、日々仕事と子育てを楽しんでいます!

■ 本の片づけの反対意見について

── 以前の雑誌のインタビューで「本を処分するのに抵抗がある国がある」とおっしゃっていましたが、それはどこの国でしょうか?

この意見を聞いたのは2015年、ポーランドです。ワルシャワ大学で講演をさせていただいたときにアテンドしてくださった方に教えていただきました。

── 番組配信後に北米で、本の片づけについて作家や愛書家から反対意見が出ました。どういう風に受け止めましたか?

議論の活発具合には少しだけびっくりしましたが、議論が起こること自体に驚くことはありません。

モノを持つ、ということは多くの方にとってアイデンティティに直結し、私の片づけコンサルタントの仕事とはまさに「人とモノとの感情的な関わり」を明らかにする作業なので、(映像を見た人が)片づけをする姿を見て何かしらの強い感情を揺さぶられることはとても理解できます。

ただ、映像だけの表現だと、説明が足りなくて誤解されることもあるのかな、と思います。

たとえば、「こんまりに無理やりモノを捨てられるのでは」と思われたケースもありますが、こんまりメソッドは「自分にとってときめくモノを残す」ことが基本の考え方なので、本にときめく場合は手放す必要はなく、堂々と取っておくのが正解です。

クライアントがモノを残すか手放すかを自問しながら決断していく中で、ご自分の価値観に気づいていく過程こそが大切だと考えています。

(c) KonMari Media, Inc.
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また「本を持っていいのは30冊まで」という言葉が私の意見として取り上げられたことがあったのですが、これは間違いです(著書の中に「当時の私の本の所有数が30冊」と書いてあったことが、一人歩きしてしまったようです)。

このように誤解されてしまうこともありますが、それでも私は議論自体が悪いことだとは考えていません。

議論をする中で、今、自分はどの部分に反応しているのか、自分はどういう価値観を持っているのか、それを踏まえた上で自分はどう生きていきたいのかを考える機会になることは、とても素晴らしいことだと思うからです。

結果として、私がもっとも伝えたいと思っている「自分にとって本当に大切なモノを大切にする」という価値観が、少しでも多くの方に広まればいいな、と思っています。

■ これからのこと

── 最後に、今後の目標や取り組んでみたいことなどを教えてください。

自分の中では『Organize the World』というキーワードを持って活動をしています。

具体的に何か大きなことが決まっているわけではありませんが、今はネットフリックスをご覧いただいた方のフィードバックを元に、次にすることを考えていきたいと思います。

日本の方向けには、『人生がときめく片づけの魔法』の改訂版の出版(2月15日)や、オンラインサロン(2月7日オープン)などを通して、「片づけを終わらせて、ときめく毎日をすごしたい」と思っていらっしゃる方のお手伝いができたらと思います。

(Interview and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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