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こんまりさんがNetflixでブレイクし、片づけ術が日本から世界へ。そのさなかに騒動も

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
2017年ベストマザー賞に選ばれた近藤麻理恵さん(授賞式の様子)(写真:山田勉/アフロ)

日本人女性がNetflixのオリジナル番組で主役を張り、アメリカで話題になっている。その番組は2019年1月1日にスタートしたリアリティショー『Tidying Up with Marie Kondo』(タイディングアップ・ウィズ・マリエ・コンドウ、邦題は『KonMari〜人生がときめく片づけの魔法〜』)。

この番組のメインキャストとして、片づけが苦手なアメリカ人に賢いホーム・メイクオーバー(家のお片づけ法)を指南しているのが、こんまり(KonMari)さんこと近藤麻理恵さんだ。シーズン1は全8話で構成され、こんまりさんの片づけレッスンを受け、家も人生も変わっていく各家庭の真情あふれるハートウォーミングな内容となっている。

アメリカは多様な人々が3億人以上も住んでいる国なので、日本のようにメディアで紹介されてあっという間に知名度が全国区になるような現象はなかなか生まれにくい。あの大坂なおみ選手や前澤友作氏でさえ知らない人はこの国にごまんといるのだから、こんまりさんに関しても正直なところ、アメリカ人の誰もが知るほどの知名度はまだない。しかし一部のファン(主に主婦層)から熱い支持を得ているのは確かだ。

実際のところ、アメリカ人(特に女性)の片づけや物の処分への関心度は非常に高い。

私の知り合いの女性(60代)は、4人の子育てや離婚を経て、そのままニューヨーク郊外の3フロア7ベッドルームの大きな一軒家に1人で住み続けているが、家の中は物だらけ。むしろ大きな家だからこそあらゆる物(何十年も着ていない衣類やプレゼントでもらった物、そのほかもろもろ)を貯め込めるようだ。彼女は頻繁に、フェースブックで不用品を販売する投稿をしている。

ニューヨークでは、あらゆる収納用品を販売する「The Container store」(コンテナーストア)がいつも客で賑わっているし、ユーズドの洋服や家具の売買も盛んだ。

こんまりさんは、英語の本を出版しベストセラーになったり、アメリカのメディアやイベントに多数出演したことで、片づけが苦手なアメリカ人ファンの心を相当数掴んでおり、今回Netflixの新番組がスタートしたことで、その知名度はさらに上がっている。

こんまりさんのアメリカでの活躍

Netflixの番組紹介文では、”World-renowned tidying expert”(世界的に知られる片づけの専門家)と表現されているこんまりさん。彼女は2015年の『Time』誌で「世界で最も影響力のある100人」として、作家の村上春樹氏とともに選ばれた人物でもある。彼女を推薦したのは、女優のジェイミー・リー・カーティス(Jamie Lee Curtis)だった。

こんまりさんのオフィシャルブログによれば、彼女は5歳ですでに片づけに興味を持ち始め、雑誌『ESSE』(エッセ)を愛読しながら15歳で本格的に片づけの研究を始めたそうだ。2011年発行の『人生がときめく片づけの魔法』に続き2014年発行の英訳本『The Life-Changing Magic of Tidying up』がベストセラーになったのがきっかけで、アメリカそして世界中で注目されることになった。

このような米系メディアでこんまりさんは取り上げられてきた(一例)

『The New York Times』(2014.10)

『New York Magazine』(2015.2 *現在は『The Cut』誌に転載)

『Good Morning America』(2015.8)

『Rachael Ray Show』(2016.7)

日本発の英語放送『NHKワールドJAPAN』(2017.3)

アメリカ南部で毎年開催の恒例大イベント「SXSW」(2017年)。英語で講演を行い、こちらも大盛況だった。

KondoやKonMariは片づけという英語に?

『The Wall Street Journal』(2017.8)

「Should You Kondo Your Kids?」(子どもをコンドウするべき?)という見出しとともに、2児の子育てをしながらうまく整理整頓していく方法が紹介されている。

コンドウは記事タイトルに使われた造語。一般的な英語としてまだ浸透していないが、影響力のあるメディアがこのように表現したことで、アメリカではKondoやKonMari=片づけをイメージさせる言葉として「一部の間」で浸透しはじめている。

こんまりメソッドが作家や愛書家の間で大炎上

片づけの段階で必要となる自分の生活や人生に必要なものか否かのものさしは、こんまりメソッドによると「ときめくもの」と「そうでないもの」を考えながら区別することのようだ。

しかしNetflixのエピソードの中で紹介された本の片づけに関して、カナダ人作家のアナカナ・スコフィールド(Anakana Schofield)氏が、こんまりさんの提唱するメソッドに反論を示した。

「不要な下着やタッパーを処分することに異論はないけど、彼女が紹介した本の処分は間違っている。どんな人も本棚は充実させるべきもの」といった主旨をツイートし、愛書家たちが次々と参戦。2万2,000人以上が彼女のツイートにLikeをしている。

ツイートに対して、スコフィールド氏への支持ばかりではなく、

  • 「あなたの言っていることは理解できるけど、私の部屋は狭いので本が少ないのはしょうがないこと」
  • 「いいえ。私は実際に読んでいるものだけを棚に保管する方が気分は良いです。あなたはあなたで本の収集を楽しんで」
  • 「人はそれぞれ異なる。人によってはあらゆる本を保管したいだろうし、そんなのお構いなしの人もいるだろうから、こんまりが間違っているとか悪いことを言っているなんてことには繋がらないよ」

など、こんまりさんの擁護派の意見も多数飛び交った。皮肉にも、この騒動でこんまりさんの認知度はさらに高まったというわけだ。

そのような騒動は何処吹く風で、Netflixの番組に影響を受けた女優のジェニファー・ガーナー(Jennifer Garner)は1月16日、インスタグラムにたんすの小物を整理している動画を投稿し、こんまりさんはそれに対して「すばらしい」とリプライしている。

こんまりさん自身に直接話を聞きたいと思いインタビューのオファーをしたが、今日まで回答は得られていない。ただし、以前掲載された日本のメディアで興味深いコメントを見つけたので、紹介しておこう。

『Woman Type』誌(2018.4)で彼女はこのように語っている。

「私の片づけ法は「手放す前に一つ一つのモノに感謝する」といったような日本的な価値観を含んでおり、モノに「魂」があるとは思っていない傾向のある欧米の方々は、この考え方に最初は驚かれるんです。でも、そうすることの理由、つまり、手放すときの罪悪感が減ることなどを説明すると、最終的には理解し、実践してくれるようになります」

出典:Woman Type

また、彼女はどこの国と明言していないものの、今回の騒動を前もって予感しているかのようなコメントもしていた。

「国によって散らかり方の違いも多少あって、子供のおもちゃが他国に比べて多い傾向がある国とか、「本を処分する」ということに大きな抵抗がある国とか、文化によってさまざま。それも世界に出て仕事をしたからこそ気づけた発見でした」

出典:Woman Type

先述の大坂氏や前澤氏もそうだが、人は著名になればなるほど、賛成派と反対派が共に出てきてさまざまな意見を浴びせてくる。

英語ではYou can’t win them allということわざがある。すべてがうまくいくことはない。すべての人を打ち負かすことはできない、というような意味だ。

有名人の避けて通れない道を彼女はちょうど今歩いているのかもしれない。しかしそんな逆境を乗り越えて、こんまりさんはアメリカで世界で「誰もが知る日本人」として、今後さらに成功していくような気がしてならない。

(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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