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生活に浸透していく「無人化」。 ニューヨークにオープンした無人レストランを体験した

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
無人レストラン「eatsa」 (Photo: Kasumi Abe)

自動運転車や無人航空機などで、近年よく耳にするようになった「無人化」。シアトルのレジなし無人コンビニ「Amazon Go(アマゾンゴー)」のオープンも待ち遠しい。

【最新ニュース】

「Starship(スターシップ)」デリバリーロボットが、シリコンバレーとワシントンDCでも営業開始。アマゾンをはじめとするドローン配達サービスが世界で注目されているが、Starship社は「ドローンより安全」と胸を張る。

デリバリーロボットの配達の様子 →動画

全米で浸透している「無人化」

生活に根付いた無人化と言えば、アメリカではひと昔前からスーパーやドラッグストアで当たり前のように設置されているセルフレジが代表的だ。

それに加え、ニューヨークでは、無人チェックインシステムを採用しアームロボットが荷物を預かってくれるホテル「YOTEL(ヨーテル)」も無人化の先駆けであろう。また、カップケーキATMとして話題になった「Sprinkles(スプリンクルズ)」などもいまだに人気がある。

WeWork内の無人店
WeWork内の無人店

飛ぶ鳥落とす勢いで世界中に拡大中のコワーキングスペース「WeWork (ウィワーク)」

そこに設置されているオネスティマーケット(正直な、という意味)は、スナックやドリンクを販売する無人店。アプリを使って購入する。

オープンしたばかりの無人ファストフード「eatsa」

「無人化」は今後どこまで進み、我々の生活にどう浸透していくのだろうか?

マンハッタンはミッドタウンのビジネス街に先月、今月と立て続けに2軒オープンした、話題の無人ファストフード店「eatsa(イーツァ)」を体験してきた。

明るくて清潔な店内に、タブレットのオーダースクリーンがズラリと並ぶ
明るくて清潔な店内に、タブレットのオーダースクリーンがズラリと並ぶ

Eatsaは2015年、第1号店がサンフランシスコにオープンするや否や「未来のロボットレストラン」として話題になった。現在は西海岸と東海岸で全7店舗を展開中(うち2店がニューヨーク)。

ウエイターもレジ係もいない

話題の的は、ウエイターもレジ係もいない時代の最先端をいく無人店ということだが、その要素に加え、ここはファストフード店にしてキヌアを使ったオールベジタリアンメニューを提供し、コンポスト用の容器を利用するなど、健康と環境に配慮していることにも注目が集まっている。

(調理もロボットがしてくれる「完全自動化」が売りの「Spyce(スパイス)」も同様のコンセプト。健康で環境に優しいカジュアルフード店が今後のトレンドになるのは間違いないだろう)

店奥には中身の見えるコインロッカーのような、受け取り用の棚がある
店奥には中身の見えるコインロッカーのような、受け取り用の棚がある

78種類の食材から自分用にカスタマイズ

クラブ系の曲がノリノリでかかっている店内。オーダースクリーンに向かい、早速オーダーを開始した。まずはクレジットカードをスワイプする。そしてスクリーンを見ながら、自分好みのキヌアや青物、ソースを選びカスタマイズしていく。店のスタッフによると、食材は全78種類用意されているそうだ。

(このようなカスタマイズは「build your own」といい、サラダバーやポケ、ヨーグルト店などを中心に、ニューヨークのカジュアルフード業界でここ数年人気のあるスタイル)

オーダースクリーン
オーダースクリーン

選ぶのが面倒な人のために、固定メニューも8種類用意されている(それぞれにカロリーやたんぱく質、糖質、脂質などの栄養素表示付き)。

料金はすべて6.95ドル(1ドル113円計算で、約788円)。サラダバーに行くと平均10〜12ドル(約1130〜1360円)ほどするので、かなりお得感を感じた。

「オーダー完了」をセレクトすると、ものの3分ほどで奥の棚にオーダーしたボウルが入れられた。長蛇の列に並ぶことなくスピーディーに購入できるのは、忙しいビジネスマンにはこれまたありがたいサービスだ。

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オーダーしたボウルはこのように受け取る→動画

ちなみに、アプリを使って事前にオーダーすれば、指定した時間に棚に入れられる仕組みなので、もっと時間短縮したい場合はアプリを利用するとよいだろう。

気になるお味はというと、多くは期待できないのではという勝手な想像は杞憂に終わった。食材は新鮮で味は申し分なく、量も食材の種類も盛りだくさんで1回では食べきれないほどだった。

ランチ&ディナーメニューの「ハマス&ファラフェル・ボウル」(6.95ドル)。ソースが2種類ついてくる
ランチ&ディナーメニューの「ハマス&ファラフェル・ボウル」(6.95ドル)。ソースが2種類ついてくる

視察ツアーらしきビジネスマン風の団体客が訪れ、見るからにワクワクしながら写真を撮ったりオーダーを試したりしていた。

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何人かの客に感想を尋ねたところ、

「コンセプトがかっこよすぎる」

「これこそまさに“未来”だね」

「マンハッタンの中心地のランチと比べると半額から3分の2の値段で、味もコストも大満足」

と、皆一様に気に入っている様子。

ちなみに「無人店」と言えどもまったく人がいないわけではなく、スタッフが常駐しており、オーダーに手間取ったりどれを注文しようか迷っている客がいると気軽にアドバイスしてくれる。また調理場は見ることができなかったが、調理をしているのはロボットではなく人間だそうだ。

味よしプライスよしスピードよし健康にもよしのeatsa。人の温かみや料理人の思いのようなものは期待できないが、飲食業界の未来の片鱗がここにあるのは確かだ。ニューヨークや全米で大成功を収めれば、近い将来日本に同店(または同様のビジネス)が進出することになる可能性もなきにしもあらず。そのときに、日本ではどう受け入れられるのだろうか?

最新情報アップデート

eatsaニューヨーク店ほか全米5店舗は2017年秋に閉店し、サンフランシスコ2店のみの営業となっている。同社は、「レストラン事業を縮小させ、今後はこの無人というテクノロジー・プラットフォームを全米展開中のWow Baoレストランなど他社のために提供することに注力していく」と発表している。(2017年末現在)

eatsaのウェブサイト

(All photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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