岡山「森の芸術祭」 鍾乳洞・渓谷・城下町を舞台にアート体験、世界のアーティストが集結
■葉の名所に鏡面のオブジェ 渓谷の美を映し出す
鏡野町の奥津渓では、立石従寛がサウンドインスタレーションを制作した。紅葉の名所でもある森の中に岩場からトレースした鏡面のオブジェが立ち、渓谷の風景と共に鑑賞者を映し出す。スピーカーから発せられる山海の生き物の声を聴いていると、自分が自然と共に生きていることを改めて実感するだろう。 真庭市の蒜山(ひるぜん)高原では建築家の隈研吾が設計したパビリオンがある「GREENable HIRUZEN(グリーナブルヒルゼン)」で作品が展示されている。 写真家の川内倫子は同市の蒜山の山焼きや北房のホタル、奇祭として勇壮なはだか祭りで知られる岡山市の「西大寺会陽(えよう)」といった自然や人間のエネルギーをこの土地の輝きとして提示した。ここでは写真家の上田義彦が天然林と人工林を撮影した作品や、森と都市や人間といった共存し影響し合う存在を幾何学的に組み合わせた東山詩織の絵画なども鑑賞できる。 また真庭市の勝山町並み保存地区では建築家の妹島和世が地元の協力を得て制作した椅子が点在している。動物を思わせる脚が特徴的な椅子は訪問者の体を休め、新たな場所へいざなってくれる。ちなみにこの街道の各戸には先述の染色家・加納容子による暖簾がかかっている。
■高梁川源流の新見市、鍾乳洞に新たな光を当てる
高梁川の源流に位置する新見市には複数の鍾乳洞がある。その一つ、井倉洞で展開されているのはアンリ・サラによるインスタレーション。スピーカーやライトなどが搭載されたリュックを背負って中に入ると、そこから流れるさまざまな音に反応して光が発せられ、空間の凹凸や鑑賞者の歩みも要素となった稀有(けう)な体験ができる。 歌人の与謝野鉄幹・晶子が「奇に満ちた洞」と絶賛した満奇洞では、写真家・映画監督の蜷川実花がデータサイエンティストの宮田裕章、セットデザイナーのENZOらと結成したクリエーティブチーム「EiM(エイム)」としてインスタレーションを披露。鑑賞者は黄泉(よみ)巡りのような体験を通して、自らの存在や生死に思いをはせることになるはずだ。 質の高いアート作品が目白押しの本芸術祭では、岡山県北部、ひいては森林大国である日本の隠れた資源をさまざまな形で再発見できる。会場は広範囲にわたっているので1泊2日以上の時間を取って、心と体でそれらを深く感じてほしい。 文:小林沙友里(ライター、エディター)