岡山「森の芸術祭」 鍾乳洞・渓谷・城下町を舞台にアート体験、世界のアーティストが集結
■伝統工芸、生成AI使った映像…多彩な作品集う津山
奈義町の西に接する津山市は、かつて津山城の城下町として栄え、現在も県北部の中心都市となっている。江戸時代の木造建築と明治・大正時代に建てられた欧風建築が立ち並び、豊かな歴史や文化が感じられる津山城周辺エリアには今回特に多くの作品が展示されている。 国の名勝に指定されている衆楽園では、リクリット・ティラヴァニが2種類の作品を展開している。一つは地元の工芸に着目し、後述する真庭市の染色家・加納容子とコラボレーションした暖簾(のれん)の作品。もうひとつはティラヴァニがディレクションし、津山市のbistro CACASHII(ビストロ カカシ)のシェフ・平山智幹と同市のスーパーマーケット・マルイと開発した、地元食材を使用した弁当だ。ツアー参加者はこの暖簾がかかる空間で食事をすることができ、この地の工芸や食文化を体感することができる。 約2万点の剥製などを展示する「つやま自然のふしぎ館」はその施設自体が非常に魅力的なのだが、今回はそこでソフィア・クレスポが生成AI(人工知能)を使った映像作品を展示。AIが膨大なデータから作り出した絶滅危惧種らしきものの姿は周囲の剥製と比べ曖昧で、自然の危機について人間が握っている情報が思いのほか乏しいことを示している。 華道家の片桐功敦は「むかし町家(旧梶村邸)」で津山市産の小麦を使ったインスタレーション作品を公開。「食物は人が自然をコントロールしようとした結果でもあり、コントロールできない自然とやり取りした成果物でもある」と言う彼は植物の有用性と美を提示し、人間と自然との関係の再考を促す。 津山城周辺エリアではほかに、写真館に眠っていた過去の映像に現在の光を当てた志村信裕の《記憶のために(津山・林野)》、日本が発祥の森林医学に着目しこの地域で採取した植物で森林浴体験を提供するビアンカ・ボンディの《森林浴》も見逃せない。どちらの会場も大正時代に建てられた瀟洒(しょうしゃ)な洋館だ。 津山城周辺エリアの北に位置する公園「グリーンヒルズ津山」ではエルネスト・ネトが、リサイクル繊維をかぎ針で編んでつるした巨大な虫のような作品を展示。はだしで中に入ると、網と芝生の感触が心地よく、体と精神が再接続されるようだ(土日祝の午前9時から11時、午後1時から5時のみ立ち入り可能)。