J1で活躍→英移籍で苦悩「サッカーの種類が違う」 ファン人気獲得も思わぬ壁…23歳の現在地【現地発コラム】
「特徴を出したいと意識して挑みましたけど」…攻守で残した課題
監督のリアム・マニングは、昨年11月まで指揮を執っていたオックスフォード(2部)でも、4バックと3バックを併用した過去を持つ。現任地での採用は、ひと月ほど前から。平河は当初3-4-2-1システムで2シャドーの一角を任されていたが、守備面での責任感も強いことから、ウイングバックに高い位置で攻守のハードワークを求める指揮官が同ポジションでの起用に踏み切ったのだろう。 だが、次第に攻撃面での存在感が薄れ始めた平河には、守備面での苦戦が目につくようになった。 対峙した敵の左ウイングバックは、セリエAのウディネーゼからレンタルで籍を置いているフェスティ・エボセレ。ナイジェリア人を両親に持つアイルランド代表DFは、前回にワトフォードのホームで大橋のいるブラックバーン戦を取材した際にも、適所と見受けられるウイングバックとして威力を発揮していた。 平河は、次のように自らの出来を振り返っている。 「このチームで求められていることをやりながら、自分の特徴を出したいと意識して挑みましたけど、マッチアップした選手もかなり速くて、フィジカル的にも『ザ・イングランド』みたいな感覚があった。ああいう選手を相手にどんどんトライして、自分もステップアップできるようにやっていきたいなと思いました」 8月末のデビューから約3か月、ブリストルのレギュラーとして戦ってきた「チャンピオンシップ観」を尋ねると、こう答えてくれた。 「J1でプロになって初の海外になったわけですけど、本当にサッカーの種類が違うというか、実際に来てみないと分からないという実感を強く味わっているところです。今後のキャリアにおいて本当に大事な時期になってくると思うので、自分の課題を克服しながら、今後、代表にも絡んでいけるような活躍をしたい」
ステップアップを目指すべく取り組む改善点
日本とは異なるサッカーの世界で直面するチャレンジは、ピッチ上だけではないという。 「サッカー自体による疲労とか、コンディション面の難しさもありますけど、移動での負荷というところでも大きく違う。ほとんどバスで移動するのが当たり前の環境なので、そういう面でも初めてという感覚で適応しようとしているところです」 イングランドでの修行先は、プロのクラブが割と少ない国内南西部の都市を本拠地とする。今季のチャンピオンシップを見ても、全24チームの約3分の2が、少なくとも片道2時間のドライブを要する、南東部のロンドンや中部以北の対戦相手だ。 その1つ、西ロンドンのクイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)には、今夏のパリ五輪代表チームメイトで、2部にてイングランド初挑戦中の日本人ウインガーという境遇も同じ斉藤光毅がいる。 「仲が良いので連絡も取り合っていますし、一緒にご飯に行ったりもしました。来月(14日)にはリーグ対決もあるので、お互い負けないように頑張れたら」 斉藤のQPRは降格圏内の23位に低迷しているが、平河のブリストルは、ワトフォード戦で今季2度目の連敗となっても中位の12位。激戦区のチャンピオンシップだけに、まだまだ昇格を懸けたプレーオフ出場権(3~6位)争いの可能性を残している。そのチームで新たな即戦力となっている23歳は、どのような改善点と貢献度アップを意識しているのか? 「挙げたら本当にたくさんあります」と切り出した当人は、こう続けた。 「チーム状況的に2連敗という形で点も取れてないので、もしかしたらシステムがまた(4-2-3-1に)戻ったりとか、メンバーが変わったりするかもしれませんけど、そのなかでもチーム内競争で勝てるようにしていきたい。 2つだけ挙げるとしたら、まず1つは90分間、ハイ・インテンシティでプレーできる、中2日でもやり遂げられるだけの体力とか筋力をつけていくこと。もう1つは、このチームにおいて、エースというわけじゃないですけど、得点に関わる回数をとにかく増やすことが自分には必要。それができるようになっていけば、より自分の成長にもつながりますし、ステップアップになっていくと思うんです」 その意気込みを示していたかのように、自身最後のプレーでは、エボセレとのデュエルで一矢を報いている。交代が告げられる数十秒前、瞬時の加速で距離を空けてコースを見い出すと、右足でクロスを放ってみせたのだ。 続く中3日での翌節プリマス戦、平河は、本人の予想通り4バックに戻されたシステムの2列目右サイドで、移籍後3度目の先発フル出場に近づいた。チームも、ホームで下位から快勝(4-0)を収め、11位へと1つ順位を上げている。 ただし、ピッチ上での課題も自らが語っていたとおりだった。この日のプリマスは、今季から指揮を執るウェイン・ルーニーが「情けない」と認めた不甲斐なさ。ブリストルは、無得点に終わった前半のうちに、ポゼッション上の優位を得点に反映しているべきだった。同20分、右サイドでフリーになった平河のクロスは、あっさりと相手DFにクリアされる類の1本に終わった。 もっとも、その15分後には先制点が生まれているべきだったクロスを放り込んでいる。前半のベストチャンスを演出したと言っても良い。チャンピオンシップのピッチ上でも、プレーに一貫したクオリティの高さが見られるようになれば、当人の口をついた「エース」級の存在感を持つ主力となり得る。 もちろん、結果的なゴールが生まれずとも、ホーム観衆が低音で響く「ユーゥゥゥ!」のチャントで反応したことは想像に難くない。平河は、ひた向きにチャレンジを続け、その背中を、ファンの声援が押し続ける。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka