トランプ氏再選が意味するもの。 専門家が読み解く「その後」の世界情勢と日本との関係
記事のポイント ウォール・ストリート・ジャーナル日本版が主催したイベント「米大統領選を解く:米国、日本、そして世界への影響は?」では、専門家たちが、経済政策の影響や外交上の課題について意見を交わした。 トランプ氏の勝利要因として支持基盤の拡大や経済的な不満があったことが議論され、特にヒスパニックや黒人層からの支持増加が注目された。 日本は米国の保護主義的政策やアメリカ第一主義にどう対応するかが問われており、独自の外交戦略構築が求められている。 トランプ氏勝利の背後にある戦略と支持基盤の力とは何だったのか。米国の政策は、経済や国際関係にどのような波紋を広げるのか。そして日本は、この激動の変化にどのように対応すべきなのか──。 2024年米大統領選の結果と次期政権が世界情勢に与える影響について考察するウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)日本版主催のトークカンファレンス「米大統領選を解く:米国、日本、そして世界への影響は?」が11月12日、都内で開かれ、専門家らによる多角的な議論が行われた。 パネルディスカッションには、WSJ日本版の編集長である西山誠慈氏、みずほリサーチ&テクノロジーズ調査部長の安井明彦氏、東洋大学国際学部教授の横江公美氏が登壇。トランプ氏再選の要因として、支持基盤の拡大と経済的な不安が挙げられたほか、保護主義的政策が米国や世界経済に及ぼす影響が議論された。日本は、次期政権での「アメリカ第一主義」や国際情勢の変化に対して、外交・経済戦略の再構築が必要とされていることなどが見えた。
ヒスパニック・黒人層からの支持が増加
トランプ氏が再び勝利を収めた要因の一つは、支持基盤の広がりにある。横江氏は、特にカマラ・ハリス副大統領候補がカトリック系チャリティイベントに参加しなかったことが大きな影響を与えたと分析する。 横江氏は、「ハリス氏は個人インタビューの度に支持率を落としており、それは話す能力の至らなさが露呈したことに起因していると言える。カトリック系チャリティイベントでのスピーチはテレプロンプターなしで行わなければならず、そのためスピーチ能力に対する懸念から参加を避けたのではないか、という声も多い。その結果、二重の意味でマイナスとなったのでは」と話した。 西山氏は支持基盤のつながりについて、これまで共和党が「お金持ちの党」とされていたのとは対照的に、今回「労働者の党」としての側面を強めたと話した。「労働者層の中心である製造業は縮小傾向にあり、特に2016年時点では、トランプ氏の支持層は白人の非高学歴労働者が多くを占めていたにもかかわらず、人口動態の変化により、この層は減少。トランプ氏の支持基盤が縮小する可能性があった。しかし、実際には、ヒスパニックや黒人といったほかの弱い立場の層においても、変化を求める声が広がった」。 これを受け、安井氏は「トランプ氏の支持は依然として強固であった。トランプ氏が再選を果たした背景には、『変化を求める有権者の思い』が大きく影響している。出口調査によれば、トランプ氏を支持した有権者は『リーダーシップ』や『変革』を重視しており、これがトランプ氏を選ぶ決定的な要因になった」と述べた。 また、インフレの影響により経済状況が悪化するなかで、現職の政権が不利に立たされ、結果的にトランプ氏が支持を集めたともいう。トランプ氏が支持を得た背景には、米社会の格差が拡大している現実がある。格差の拡大により、米社会では景気が好転しても「国の進む方向」に対する不安が拡大した。こうした社会的要因が、トランプ氏への支持を集める要因となったと安井氏は考える。 12万人以上の登録有権者を対象にした性別および年齢別の投票差を示すグラフ。若年層の有権者は全体の16%を占めており、特に18~29歳の女性の支持が2018年から減少。以前は民主党寄りの割合が33ポイントだったが、現在は18ポイントに減少した。18~29歳の男性は決定的にトランプ氏に投票した。 また今回の選挙において興味深いのは、トランプ氏が中間層の支持を得たことだ。横江氏は、「民主党は高所得者層と低所得者層の政党に、一方で共和党がその中間層の政党になりつつある。これは米国の政治的な分断の形が変化していることを意味している。トランプ氏は白人主義者としてのイメージが強かったが、今回、ヒスパニック男性、黒人のあいだでもトランプ氏への支持が増加している」と解説した。