トランプ氏再選が意味するもの。 専門家が読み解く「その後」の世界情勢と日本との関係
保護主義的な政策によるマイナス影響は大
多くの人々が関心を寄せる、トランプ氏の経済政策。特に関税の問題が取り沙汰されるなかで、財政拡大が進むのではないかという声も上がっている。安井氏は今後の米国経済についてこのように解説する。 「全体的に見た場合、トランプ氏の政策はインフレ懸念を引き起こすものだと言わざるを得ない。まず、拡張財政を進めるために減税を行い歳出は減らすと言っているが、実際には大きな削減は難しいからだ」。 また、関税引き上げの政策、移民制限については「労働力が減り雇用コストも上昇する。そのため、全体的にコストが上がり、インフレが加速する」と見解を示し、こう続けた。「景気に与える影響があまりにも大きいため、途中で方針を変更する可能性もあるが、市場は一定の警戒心を持つべきだろう。トータルで見ると、関税などの保護主義的な政策のマイナス影響の方が、財政拡大によるプラスの影響を上回り、結果として経済に与える影響は深刻になると予測できる」。 また、生成AIなどの技術革新が各国で加速するなか、規制緩和を進めることに関しても注意が必要だと述べる。「米国は、底力としての強さを持っているが、その強さが技術革新や生成AIの分野でどれほど発揮されるかは不確定。しかし一方で、米経済においては、民主主義と法治国家としての信頼性があるため、米国への投資の動きは強まるだろう」と話した。
「アメリカ第一主義」に日本はどう向き合うか
トランプ政権が誕生し今後の影響を捉えたうえで、外交面では日本としてどのように付き合っていくべきなのか。ロシアや中国、ウクライナとのネクスファクター(予測不能な要素)が大きいなかで、日本はどのように対応していくべきか。 横江氏は「関税に関しては、日本を含む全世界に対して強硬な姿勢を見せるのは確実」とし、「日本はロシアからではなく、米国から天然ガスを購入することになる。民主党政権のもとでは、日本がロシアと関係を持っていたこともあったが、ドイツがロシアとの関係を断ち、すでに米国から天然ガスを購入していることを踏まえれば、日本も同様の対応を強いられるだろう」と続ける。 また、安全保障面において米国は、中国、北朝鮮、ロシア、イランといった国々が共闘する形で圧力を高めていくことを懸念している。そのため、日本の役割や位置付けは今まで以上に重要視されていく、と横江氏は述べた。 安井氏は、「日本として何をしたいのかをしっかり考えることが重要」と指摘する。「アメリカは『アメリカ第一主義』を掲げており、この方向性は変わらないだろう。そうした中で、日本はどうしたいのか。どこで米国に頼り、どこでほかの国と同等に関係を築いていくかを考えるべきだ。ミドルパワーやグローバルサーフなどの観点で、どこで仲間を作っていくのかも見極める必要があるだろう」と話した。 パネルディスカッションの最後に行われた質疑応答では、「外交面や防衛面では、日本より中国を頼る可能性があるのでは?」という質問が投げかけられた。これに対し横江氏は「地政学的に日本と組むことが米国にとって最重要要素である」と回答。安井氏は「米国と中国の関係が常に対立するわけではないが、日本も先端技術や安全保障という面で、足元を見て慎重に進めるべきだ」と答えた。 日本がどのように米国と向き合い、激変する国際社会の中で自国の立場を確立していくかが、今後の鍵となるだろう。 文/杉本結美、編集/戸田美子(Digiday Japan)
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