「アワー レガシー」創業者にインタビュー、65億円のビジネスの先に見据える未来
デジタルから影響を受けて行動したことは、自分自身から生まれたものではない
⎯⎯お二人が育った90年代は、ネットも普及していない中で自分の好奇心のまま、さまざまな分野へのアクセスが生まれやすい時代だったのではないかなとも思います。デジタルからの影響を避けて通れない現代ですが、クリエイションにおいて日常的なデジタルとの距離感はどうされていますか? ニイン:デジタルから影響を受けて行動したことは、自分自身から生まれたものではないと思います。例えば実際に書店に行って、色々なものの中から選んだ本というのは自分の好奇心から生まれた行動ですよね。そうした行動は、自分自身を成長させる良い働きを与えてくれます。一方で、デジタルは簡単にミスリードしてしまう。例えば、自分が好きだと思ったものも、他の人がライクを押していたから好きだと感じたかもしれないし、興味を持った本当のきっかけが分からない仕組みになっています。他にも、あちこちに気が散らかるような仕組みも問題なように感じます。 ハリン:デジタルは全てを速くさせてしまいますよね。検索をしていると、次から次へと情報が入ってきてすぐに全てをわかってしまったような感覚になってしまう。実際の体感を通して知っていくというのとは全く違うものでだと思います。本来、自身の好みというのは、自分の体験をもとにわかってくるもの。僕も、普段からインスタグラムでは他のブランドをフォローしていません。意識していなくとも、自分から出てきたはずのアイデアに、その見たものの一部が反映されているということがあるからです。そうしないために、現代社会でクリエイターが出来ることとしては自ら意識的に距離を取っていくしかないと思っています。先ほど、クリストファーが本屋に行くという話を出していましたが、同感です。自分で選択して、その先に考え続け、実際にアウトプットや行動することが大切だと僕も思います。 ⎯⎯多くのファッションブランドがインフルエンサーの着用や派手な広告を行う中で、アワー レガシーはそうしたマーケティングを行っていないのも特徴的だなと思います。 ハリン:支えてくれているファンの方々を必要以上に圧倒させるようなことはしたくないなと思っています。もちろんラグジュアリーブランドは、単純に僕たちよりもコンテンツチームの規模感が大きいので、あちこちに広告が出せているのかもしれないです。でも何から何まで燃え尽くすようなやり方は問題だなと感じます。いままで話した通り、自ら経験することが好きな僕たちならではのマーケティングのやり方をこれからも続けていきたいです。 ⎯⎯来年で20周年を迎えます。今後予定している取り組みはありますか? ハリン:10周年を迎えた2017年に、写真集「SELF_TITLED A BOOK ABOUT OUR LEGACY」を刊行したのですが、20周年もそうした写真集が作れたらなと思っています。ほかにもさまざまなコラボパートナーを迎えたプロジェクトを進めているところで、あるコラボにおいては2025年を目指してじっくりと進めているものもあります。また、ここ数年はグローバルに旗艦店をさらに増やすことにも興味があります。その中でも特に出店したいエリアというのがパリ。もちろん東京も同じくらい興味があります。この20年はリテールに関してあまり注力する余裕がなかったので、次のビジネスフェーズとして直営店出店への興味が湧いてきたところです。 ニイン:そうだね。20周年に限らず、世界各国にランドマークが作れたらいいなと思っています。ここ数年で自分たちの長所と短所がわかった上で流れに身を任せるようになってから、このバランスの取り方が大切だと気づきました。感覚的な表現ですが、決して一時の大きな流れを狙うわけでもなく、大胆に行動に出ることとも違っていて。常に日常から感じることに親しみを持ちながら、毎日どんな時でも成長できる環境をこれからも大切にしていきたいです。 Yoshiko Kurata アーティストコーディネーター/ファッションライター 1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、FASHIONSNAP、GINZA、HOMMEgirls、i-D JAPAN、SPUR、STUDIO VOICE、SSENSE、TOKION、VOGUE JAPANなどがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。2022年にはDISEL ART GALLERYの展示キュレーションを担当。同年「Gucci Bamboo 1947」にて日本人アーティストniko itoをコーディネーションする。