最難関テーマ「自殺予防」と向き合う専門家 苦しみを抱える人に伝えたいこと #今つらいあなたへ
自殺未遂を経験した人の再発予防は、世界的に難しい課題とされてきました。日本では、世界に先駆けて自殺未遂者の再発防止を目的とした研究「ACTION-J」が2005年に始まり、2010年代半ばより精神科医である札幌医大の河西千秋教授らによって、研究によって得られたさまざまな成果が発表されてきました。河西教授は「自殺問題の一端は健康問題であり、その多くは予防可能」と指摘します。河西教授と、同じ研究チームの公認心理師・津山雄亮氏から、支援者やまわりの人が取るべきアクションなどについて話を聞きました。 【画像で見る】原因・職業別 自殺者の内訳
「自殺予防」に立ち向かう 原点となった無念の気持ち
編集部: 自殺予防は、精神科のなかでも最も難しい課題と考えられているそうですが、なぜなのでしょうか? 河西教授: 精神疾患と自殺の関連は密接です。しかし、精神科以外の病気でもそうですが、精神疾患の原因や病態が解明されているとは言えません。 精神疾患の場合、病態が完全に解明されていなくても、標準的な治療を行うことで病気を改善させることはできますが、患者さんを取り巻くさまざまな社会的要因や環境的要因により、状況が好転しないばかりか、暗転してしまうことさえあります。 自殺を防ぐことがいかに難しいことであるか、我々精神科医は普段の診療でいつも感じています。 編集部: 河西教授が、扱うことが難しいテーマである「自殺予防」にチームで取り組むようになったきっかけを教えてください。 河西教授: 一つは、自分自身が、身近に患者さんや知人の自殺を経験し、初めは無力感を感じましたが、しかし、何とかできなかったのかという強い思いを抱いていたことです。 二つ目は、精神科は、患者さんが生きてさえいてくだされば、患者さん自身のためにできることが必ずあるので、何とか生き続けて欲しいという気持ちです。 三つ目は、留学時代に自殺についてじっくり学ぶ機会があり、自殺で亡くなる方の大半が精神疾患に罹患していたという事実を再確認するとともに、自殺予防についても学んだことです。また、自殺対策に取り組んできた海外の方ともお会いして、自殺を防ぐ方法があることと、自分にもできることがあるということを確信しました。