2025年、注目の展覧会10選。
大竹はこの個展のために新作の「網膜」制作に集中的に取り組んでいる。長時間留置されたポロライドの感光剤は変質し、そこに蓄積された記憶を浮かび上がらせる。会場では未公開作品や2014年に制作された巨大な立体作品《網膜屋/記憶濾過小屋》など、「網膜」シリーズのさまざまな展開が見られる。動き続けてとどまることを知らない大竹伸朗の現在地が見える。
●神戸・福島・東京『大ゴッホ展』(神戸:2025年9月20日~2026年2月1日、福島:2026年2月21日~5月10日、東京:2026年5月29日~8月12日)
オランダのクレラー=ミュラー美術館からゴッホ作品を中心に紹介する展覧会。「I 夜のカフェテラス展」と「II アルルの跳ね橋展」の2つの展覧会がそれぞれ約1年かけて神戸・福島・東京の3会場を巡回する、「大ゴッホ展」の名にふさわしいスケールだ。 「I 夜のカフェテラス展」に出品される《夜のカフェテラス》は1888年9月に南仏アルル中心部のカフェを描いたもの。ゴッホ作品の中でも人気の高い1枚だ。モデルとなったカフェは現在も営業しており、“聖地巡礼”する人も多い。この展覧会ではオランダからパリを出て南仏アルルにやってくるまでの、画家としてのファン・ゴッホの前半生をたどる。
「II アルルの跳ね橋展」の《アルルの跳ね橋》はアルルの運河にかかっていた跳ね橋を描いたもの。ゴッホはこの橋をモチーフにした作品を複数残しているが、〈クレラー=ミュラー美術館〉蔵のものが日本で展示されるのは約70年ぶりのことだ。この展覧会ではアルルからサン=レミ、終焉の地オーヴェール=シュル=オワーズに至るまで、ゴッホ最晩年の2年半にフォーカスをあてる。 人付き合いがいいとはいえないゴッホは絵も売れず、貧困に苦しんだ。そんな状況にあっても絵を描くことはやめなかったゴッホの人生が浮かび上がる。
●茨城『磯崎新展(仮称)』(2025年11月1日~2026年1月25日)
2022年に逝去した磯崎新の回顧展が彼自身の設計による〈水戸芸術館〉で開催される。1931年、大分市に生まれた彼は丹下健三のもとで学び、1963年に磯崎新アトリエを設立した。60年代に大分市で集中してプロジェクトを手がけ、後にバルセロナや奈良など世界各地で多くの作品を残している。2019年にはプリツカー賞を受賞するなど、その活動は国内外で高く評価されていた。
彼は建築だけでなく政治・社会・文化と幅広い分野で深い論考を重ねていた。『建築の解体』『デミウルゴス 途上の建築』といった著作には建築史や哲学を横断する彼の思考が現れている。浅田彰や横尾忠則といった知識人・芸術家たちとのコラボレーションやキュレトリアル・ワークでも鋭い視座を示した。 この展覧会では20世紀を代表する建築家であり、建築の枠を超えた知の巨人といっていい磯崎の文化的、思想的活動を総体的に紹介する。近代建築の超克を目指した彼が残したものから何を読み取るのかが問われる。
text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano