なぜ阪神藤浪は692日ぶり復活勝利を手にすることができたのか?
ハイライトは2回だ。 先頭のエスコバーに内野安打を許し、続く山崎晃太朗には初球からバントで揺さぶられた。ゴロ処理の送球に難のある藤浪の弱点である。だが、ミスをしたのは、藤浪をカバーした梅野だった。バント処理の二塁送球が大きくそれたのだ。さらにヤクルトベンチの残酷な藤浪崩しは続く。田代将太郎も、あえて藤浪に捕らせる送りバント。二、三塁に進められたが、藤浪は、横から投げて一塁は冷静にアウトにした。だが不運は続く。このピンチに西田明央をツーナッシングからインローのストレートでバットに空を切らせたのだが、梅野がボールを後逸。得点と共に振り逃げを許してしまう。一死一、三塁と変わって動揺している藤浪にヤクルトがたたみかけてくる。投手の吉田大喜が追い込まれたカウントからまさかのスリーバントセーフティスクイズを仕掛けてきたのだ。三塁の大山悠輔が、走者の山崎をまったく牽制していなかったことも手伝い、大きなリードから好スタートを切った山崎が本塁へヘッドスライディング。藤浪はバックトスを送ったが間に合わなかった。 ひっかき回されて2点を失い、さらに坂口に四球を与えた。本来なら、ここで、もう崩れてもおかしくなかった。だが、藤浪は動じなかった。 宮本を152キロのストレートで押し込みレフトフライ、青木も153キロのストレートでライトフライに打ち取ったのである。ヤクルトは、2人続けて初球攻撃をしてきた。これまでならば待球作戦。だが、過去4戦のデータをとったヤクルトは、“今年の藤浪は荒れない。だが、ストレートに力はない“と判断し好球必打を指令したのだろう。しかし、制球重点型であっても藤浪のストレートには球威があったのである。 4回にも一死から西田にライト前ヒットを打たれ、代打・浜田太貴に四球を与えた。だが、“四球後の姿“が違っていた。坂口、宮本をここでも続けて抑えた。 以降、5回に村上、7回に坂口に一発は浴びたが、いずれもソロアーチ。7回一死から青木にレフト線二塁打を許し、村上を迎えたところで岩崎優にバトンタッチしたが、90球の力投でリードは守った。 マウンドを降りる藤浪に大きな拍手が起きていた。 「今日もたくさんのファンの方々が応援してくださいました。こんな状況の中で励みになります」 試合後、藤浪はファンへ感謝の意を示した。 藤浪は打者としてもチームを牽引した。38イニングぶりとなる先制点は、藤浪の執念から生まれた。2回一死満塁から吉田のカットボールを引っかけた。三塁へのボテボテのゴロ。「やばい、ホームゲッツーか」。藤浪の脳裏を最悪の結果がかすめたというが、バックホームを焦った村上がボールを握り損ねた。あわてて一塁へ送ったが、全力疾走している藤浪の姿が目に入ったのか。送球がホーム側に大きくそれて、藤浪は一塁を駆け抜けた。 「ラッキーだったと思いますね。一生懸命走っていたので一塁もセーフになりましたし、それは結果として、いいように向いた要因かなと思います」 藤浪は、4回に三振を喫しているが、フォークがワンバウンドとなり西田がボールをこぼすと振り逃げを狙って一塁へ全力で走った。6回に送りバントを決めた打席もそうだった。