「おてて、いつ、はえてくる?」子の問いかけに唇を噛んだ母。障害を持つ息子に母が伝えた、「自由」の意味
生まれつき、左手指が2本。その手を「三日月のようなカタチ」と自ら語るのは、三上大進さんです。スキンケア美容家として美容誌で活躍する三上さんは、平昌2018、東京2020ではパラリンピックのリポーターも務めました。 明るく、そして温かい人柄で多くのファンに「大ちゃん」と親しまれている三上さんですが、幼少期に周囲との「チガイ」に落ち込むこともあったといいます。 そんなとき、いつも厳しく、そして優しく三上さんの可能性を後押ししてくれたのは、お母さんでした。 今回は、三上さんのエッセイ『ひだりポケットの三日月』で綴られる母と子の特別な思い出について、一部抜粋してご紹介します。 三上大進(みかみ・だいしん)さん 大学卒業後、外資系化粧品会社でマーケティングに従事。2018年に日本放送協会入局。業界初となる障害のあるキャスター・リポーターとして採用され平昌2018、東京2020パラリンピックにてリポーターを務める。生まれつき左手の指が2本という、左上肢機能障害を持つ。また、自身がセクシャルマイノリティであることをカミングアウトしている。現在はスキンケア研究家として活動し、スキンケアブランド「dr365」をプロデュース、運営。 Instagram:@daaai_chan
「おてて、いつ、はえてくる?」
生まれた時から、左手の指が2本だった私。 幼稚園の年中の頃、クラスの友達と自分の左手が違っていることに気がつきます。みんなとは手の形が全然違いますし、指が3本も足りません。 「だいちゃん、おてて、みんなといっしょがいい」 4歳の子に無邪気にそう言われたら、私だったらなんて答えるだろうか。 母の答えは、「年長さんになったら、生えてくるかな」。 その時の母の顔を、私は思い出すことができません。 どんな気持ちで、幼い私の言葉を聞いていたんだろう。 もうすぐ、指が生えてくる。母の言葉を素直に信じ、その日から、年長になるのが楽しみで仕方なかった。嬉しくてたまらず、お友達や先生に自慢します。 「だいちゃん、もうすぐ、みんなといっしょの、おててになるの」 その日が来るのが、待ち遠しい。幼稚園で描いた自分の似顔絵には、気が早いようでしたが、クレヨンで5本の指を描きました。もうすぐ、もうすぐ。 ――春が訪れ、待ち望んだ年長さん。 指は、生えてきません。 母にもう一度たずねてみます。 「おてて、いつ、はえてくる?」 下から見上げた母の顔は、目に涙をいっぱいに溜めて、唇をギュッと嚙んでいました。その時の母の顔を、生涯きっと忘れることはできません。 母は怒る時、唇を嚙む癖がありました。今、その時の母の気持ちを想像すると、胸が張り裂けそうになる。子どもはなんて正直で、そして残酷なのでしょう。
三上 大進