トリニトロン、ウォークマン……ソニーが生み出した名品たち
ふと家のなかを見わたしてみて、かつて燦然と輝いていたソニーのロゴがどこにも見あたらない。ある40代男性がため息まじりに語った。 「リビングの主役テレビは、WEGA(ブラウン管テレビ)までソニー製オンリーでした。でも、液晶になってからはずっと他社製です。有機ELの大型化を待っていましたが、いつのまにか話題にも上らなくなりましたね。先日、テレビ事業の分社化が発表されましたが、累積7000億円という赤字ではやむを得ないでしょう。悲しいですけど。 ウォークマンはだいぶ前に iPod にかわりました。CDラジカセやプレステ(PlayStation)、中古のAIBO(ペットロボット)は押し入れのこやしになっています。プレステは新発売の4に関心が集まっていますが、息子はスマホのゲームで満足しているようです。買い換えを検討しているビデオカメラも、商品比較サイトを見ると、ハンディカムより他社製のほうが気になります。どれも「パスポートサイズ」並みですから。 パソコンもソニーのVAIOを愛用してきましたが、いまはiPadで十分。そのVAIOも、日本産業パートナーズに売却されるそうですね。ソニーのロゴが外されないうちに最後のVAIOを買っておこうかなあ、記念に……」
ソニー・ブランドを確立したトリニトロン
物心がついて以来、ソニー製品に目と耳を奪われてきた、いや、心も支配されてきたという中高年は少なくない。だが、そんなソニーが苦境にあえいでいる。世界に誇れる技術のソニー。終焉ではなく岐路にあることを信じて、代表的な2つの製品を振り返ってみたい。 技術の結晶「ソニー・プレミアム」の一つが、トリニトロン・カラーテレビであろう。トリニトロンはカラーテレビ受像管の一方式に過ぎず、ウォークマンやAIBOのような「絵」になるプロダクトではない。だが、その「絵」を映し出す映像クオリティーは革命的だった。 1968年に発売されると同時に、国内外で高い評価を得て、ソニー・ブランドの確立に貢献。1973年には、米テレビ界の最高の栄誉「エミー賞」を受賞している。テレビ受像器としても、日本企業としても初めてのことであった。 その後、トリニトロンはパソコン用ディスプレイにも採用され、長らく高画質AVのコアとして快走しつづけた。20世紀最後の年には約2000万台を売り上げたが、軽量化・薄型化に限界があった。しだいに液晶ディスプレイに主役の座を奪われ、2008年に生産終了。ひっそりと、その役割を終えた。