新型コロナと少子化で閉院も 小児科医療が直面する危機
同様の指摘はほかの複数の小児科医からもあった。それを裏付けるように、ヒブなどワクチン接種が公費で助成されて以降、細菌性髄膜炎の発生数は激減。ヒブによる髄膜炎は100%減少、肺炎球菌による髄膜炎は71%減少(ともに2014年)したという研究報告もある。 国立成育医療研究センターの五十嵐隆理事長は、もはや地域の小児科医療は病気を診るだけにとどまらず、より頻度の高い健康診査(健診)や予防医学にも踏み出していかなければ、立ちゆかなくなると語る。 「小児科医療は新しい役割を創り出していくべきだと思います。たとえば、最近は子どもの心の問題や、貧困問題なども大きな課題です。そうした変化も踏まえて、小児科医が地域で継続的に子どもや保護者と関わり、子ども自身の悩みを聞ける体制づくりとして、私は5年ほど前から新たな個別健診の導入を国に提案しています」
東京より広い医療圏で小児科は3つ
こうした医療の変化が進む一方、地域的な視点で見ると、小児科医療は十分行き届いているとは言いがたい。 近年、大学医学部入学定員の増員など国の施策により、多くの診療科で医師が増え、小児科医の数も微増している。だが、開業医は子どもが多い都市部に集まる傾向があり、子どもの少ない地方には、小児科医がほとんどいないことも珍しくはない。医師の偏在という問題だ。 医師偏在指標で「全国で最も医師が少数」とされるのが岩手県だ。中でも宮古市を中心とする宮古医療圏は面積が2670平方キロメートルと東京都よりも広いが、医師数は極めて少ない。岩手県医師会の資料をもとに調べたところ、2021年6月現在、宮古医療圏で小児科を掲げる医療施設はわずか7つ、小児科メインの医療施設は3つにとどまる。
その一角を担うのが、宮古市中心部にある川原田小児科医院だ。患者は、北は田野畑村、南は山田町や大槌町からも通ってくる。医療圏は半径40kmにまたがると院長の川原田隆司さん(68)は言う。 「車で1時間半から2時間かけて通ってくる人もいます。遠くから来られると、ちょっと過剰かもしれないけれど、いろんな検査をして通常よりは手厚く診るんです。急変してまた戻ってくるとなったら、えらいことになるだろうから」 三陸道が開通するなどアクセスがよくなり、遠方から通う患者は増えつつある。同院では看護師5人と手厚いチーム体制で、患者の対応にあたる。 「うちの看護師さんたちは、『お母さん、遠くから来て大変だったね』と共感の気持ちを伝えています。そこでお母さんたちも、また元気になって帰っていくのかな」