新型コロナと少子化で閉院も 小児科医療が直面する危機
1999年に開院して22年。都筑区は当時も今も、15歳未満の年少人口の比率が横浜市で最も高い。昔、患者として診ていた子どもが成長して母親や父親になり、赤ちゃんを連れてくるようにもなった。 「本当は長く続けて、そういう人を増やしたかった」 樋口さんは、悔しそうに言う。 閉院の日は、花束や手紙がどっさり届いた。子どもやその家族のほか、かつて通っていた「元患者」もうわさを聞いて駆けつけ、同窓会のような雰囲気に包まれたという。
医師が語った実情
2020年4月の緊急事態宣言の発出で、全国の医療機関の外来患者が激減した。なかでも減少率が著しい診療科が小児科だ。日本小児科医会による全国400施設以上を対象にした調査では、昨年3、4月の外来患者数が前年同月と比べて30%以上減少した施設が68.9%、40%以上減少が47.5%あった。5月は20%以上減少が91.0%、40%以上減少が41.6%。診療報酬総額(診療所収入)でみても、4月は38.2%減、5月は48.3%減で、特に緊急事態宣言が継続された東京や大阪などの8都道府県では59.3%減少し、全ての診療科の中で最も影響を受けていた。 日本小児科医会の神川晃会長は、危機感を募らせる。 「病院に行くとコロナに感染する可能性があるというので、昨年は多くの患者さんが受診を控えました。ご高齢やご逝去で辞められた方も含みますが、今年5月の日本小児科医会の退会希望者は202人でした。『閉院のため』と理由に書いた方が多い印象でした。理由まで記載されているのは一部ですので、コロナがきっかけで閉院を決めた小児科医院はもっとあるはずです」
こうした小児科医の苦境を受けて、厚生労働省は2020年12月中旬から、診療報酬の上乗せをする小児科救済策を講じた。2021年9月末まで続けられるが、5月から6月にかけて首都圏と関西圏の小児科医10人ほどに現況を聞いたところ、綱渡りの経営が続いている様子がうかがえた。 千葉県の開業医は「今年はテナントの家賃を減額してもらっている」、首都圏のクリニックグループ総院長は「患者数が前年度の半分以下に落ち込んだ時は、スタッフに賞与を出すことができず給与も減額していた」と語った。兵庫県の開業医は「スタッフ数は変えていないが、感染対策のため院外で待つ患者への対応や消毒など、スタッフの仕事量が大幅に増えている」と話した。 前出の樋口さんも、コロナ禍の厳しさに直面し、存続か閉院かで悩んだという。閉院という選択に傾いたのは、少子化の流れに希望を見いだしにくかったためだ。 「開院当初は、私一人で1日100人の患者さんを診ていたこともあります。その頃は広い待合室に補助椅子を出しても患者さんでいっぱいで、隣の薬局で待機してもらっていたぐらいです。それが、コロナの流行の少し前には、20~30人ほどに減ってしまっていました」