新型コロナと少子化で閉院も 小児科医療が直面する危機
新型コロナウイルスの感染拡大は小児科医療にも打撃を与えた。受診控えにより患者数が激減し、閉院を決めた小児科もある。そもそも、長年続く少子化や予防医療の広がりで、受診する子どもが減っていた。地域の小児科がなくならないためにはどうすべきか。各地の小児科医の声を聞き、小児科医療の実情に迫った。(ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
22年続いた小児科医院の閉院
横浜市営地下鉄のセンター北駅(都筑区)は、丘陵地に広がる港北ニュータウンの中心街にある。駅近くのひぐち小児科医院(樋口薫院長)は昨年末からシャッターが下りたままだ。入り口付近には「院長からのお知らせ」が貼ってあり、22年間診療を続けてきたことへのお礼と2020年12月28日をもって閉院したことが書かれている。 同院を7歳と5歳の子どものかかりつけにしていた石川真季さん(37)は、閉院を知ったとき、ショックを受けたと言う。 「精神的な安心材料がポッカリなくなった感じでした」
次女の高熱が続いた折には、樋口院長(63)は早朝から院を開けて大学病院への紹介状を書いてくれた。娘のちょっとした症状で週に何度も受診したときには、こんなふうに諭された。 「お母さん、このぐらいの症状なら大丈夫。しばらくは家で看てあげなさい。冬場の寒い時期に連れ回すと、子どもにとってはかえって体の負担になりますよ」 石川さんは「地域で見守ってくれる存在」「子育てに悩む自分もケアしてくれる存在」として、小児科の大切さを感じていた。 「心配性な私はいつも、子どもの病気のことで焦ってばかり。樋口先生のところでは、看護師さんからも『あら、大きくなったね。もう小学生になったの?』とか娘に一言かけていただき、気持ちが穏やかになりました。これからあちこちで心ある小児科の先生がやめていくような社会になったら、子育ても心配ですね」
来院患者がゼロの日も
樋口さんが医院を閉院したのは在宅医に転じて再出発するためだが、新型コロナウイルスの影響もあったと話す。 「以前から少子化で患者数が減っていましたが、そこにコロナのパンデミックが来たのでガクッと減りました。数字で言えば昨年は前年比3割減ぐらい。持続化給付金や家賃支援給付金はギリギリ対象になりませんでした。それも経営が苦しくなった要因です」 昨年の春から初夏にかけては最もひどく、患者数がゼロという日もあった。樋口さんは空き時間にできる非常勤のアルバイトを検討し、いくつかの病院に当たってみた。だが、状況はどこも同様で、求人募集はほとんどなかった。