「クロダイがアサリを食い尽くす!?」俳優・松下奈緒さんも参加した、知ることからはじめる食害対策
この一連の漁を何度か繰り返す。30分ほどの漁を終え、漁師たちは捕獲したクロダイとともに港へと戻る。
この日捕獲されたのは、8匹のクロダイ。今回の主な目的は駆除ではなく、胃のなかの内容物調査だ。松下奈緒さんが見守るなか、漁師たちの手によってクロダイが捌かれていく。
クロダイの胃の中から出てきたのは、細かく噛み砕かれたアサリの貝殻と、大量の海苔。「ほら、やはりクロダイに食べられてしまっているでしょう」と、金子監事は見学する松下さんに説明する。
「クロダイというのは噛む力が強くて、アサリも簡単に殻ごと噛み砕いてしまうんです。そして、クロダイはよく食べます。これまでの調査でも、1日あたり体重の8%もの量を捕食するというデータが出ていました。1kgのタイなら、1匹あたり80gものエサを食べられていることになります」
クロダイは食べても美味しい。利活用のため、まずは味を知ってもらう
捕獲し、調査に活用されたクロダイ。新木更津市漁協での取り組みはこれで終わりではなく、将来的には食材としてのクロダイの利活用も視野に入れて計画が作られている。
金子監事は、クロダイが食材として敬遠されている現状について話す。「これまで、東京湾のクロダイは身が臭くて美味しくない、なんて言われて敬遠されてきました。しかしそれも、工夫次第で美味しく食べることはできるんです」 雑食ゆえに嫌われがちなクロダイだが、関西では「チヌ」として、鯛に似た食感の白身を楽しむ文化もあるなど、食材としての可能性がある。
「ドリップ(体液)を丁寧に取り除いたり、皮目を丁寧に剥いだり、よく火を通したりすれば、匂いは気にならなくなる。フライやムニエルとして調理すれば、クロダイの身の柔らかさを美味しく味わえるんです」 早速、地元漁協のみなさんの手で調理が進む。
出来上がったクロダイのフライを松下さんも試食し、感想を話してくれる。「思ったよりタイの風味がしっかりとして、美味しいです!揚げても身は柔らかいままなんですね」 金子監事は、これからのクロダイとの向き合い方を語る。「まずはこうして、美味しい魚なんだとみなさんに知っていただくことが大切だと思っています。新木更津市漁協では来年度以降に向けて、捕獲したクロダイを地域の子ども食堂に無償提供する企画を進めています。子どもたちの世代が『クロダイは美味しい』と知ってくれたら、ゆくゆくは地域の飲食店にも卸せるようにしていきたい。ちゃんと値段がつく魚にしていきたい」 漁場のアサリを守るだけでなく、そこにいるクロダイも自分達の漁の営みのなかに組み込んで、新しいサイクルをつくろうとしている。 さらに、この活動の伴走支援を行っているJFマリンバンク(東日本信用漁業協同組合連合会)の藤崎稜さんにも話を聞いた。今回のクロダイの食害について、金子監事から被害の深刻さを訴えられていたという。