「当事者としての発信はこれっきりにしたい」伊藤詩織さん会見7月20日(本文1)
ぱっと思い浮かぶのは最初のほう
西廣:皆さん、こんにちは。そうですね。今、詩織さんの話を聞いてて、本当に長かったって思って、今ちょっとぱっと思い浮かぶのが最初のほうですね。法律相談をして、打ち合わせをしたあとに、彼女が大きなやっぱりカメラとかを持ちながら、足に包帯巻いて、足を引きずりながら歩いてきてたなというのを、ちょっとその姿が浮かんでました。まずちょっと弁護士として、今回の訴訟について振り返ってみたいと思います。 詩織さんが山口氏に対して損害賠償をした本訴では1審、2審とも勝訴をして、最高裁でもそれが維持されて、山口氏による性的暴行があったことで、詩織さんのほうの330万円の請求が認容されたという判決になりました。山口氏から詩織さんに対して名誉毀損に基づく損害賠償請求、これが反訴なんですけれども、これについては一部認容されて、デート・レイプ・ドラッグのくだりについて山口氏の名誉を毀損したということで55万円の慰謝料が認容されています。 本訴については、刑事事件としては嫌疑不十分ということで不起訴処分になりました。起訴猶予という形ですね。しかし民事事件では性的暴行があったということが認められています。刑事事件では無罪とされたわけではなくて嫌疑不十分、つまり疑いは残るけれども証拠が不十分であると、起訴しないということを検事が決断した、決めたということになります。一方で民事では性的暴行があったというふうに裁判所のほうで認定されています。これは結局、なかったことにはしなかったという結果は、詩織さんご本人にとっても、それから1つの性被害の事件にとって大きな意義があったなというふうに感じています。
本訴は「べき論」との闘いだった
この本訴のほうでは、べき論とか、何々したはずだという、そういったことに対しての、そういったこととの闘いだったなというふうに感じてます。例えば被害者であればホテルの客室からフロントに助けを求めるはずだとか、フロントにじかに助けを求めて走っていくはずだとか、髪を整えて外には出ないはずだとか、着の身着のまま帰るはずだとか、加害者に迎合するようなメールは送らないはずだとか、そういった、何々したはずだということで被害者像を決め付けられてきたと。それに対して、こちらとしては詩織さんの一貫した供述、それからそれを裏付けるメールだとか、カルテだとか、防犯カメラの映像だとか、そういった証拠を積み重ねていて、認められることができたというふうに思っています。 反訴については、これは1審では請求は棄却されましたけれども、2審では認容されています。裁判所の結論がこのように異なったのは、デート・レイプ・ドラッグを使用されたと思うとして触れた部分について社会的評価を下げたということが言われて、というふうに認定されています。これについては後ほど山口先生や佃先生からお話しいただけるかと思います。 隣にずっと同伴してきて、詩織さんはあくまでも自分の経験として語ってきただけであって、本件公表当時にはデート・レイプ・ドラッグを使用した事件はあまり知られていなかったところ、受け手である一般の方々において、聞き慣れない言葉だったり、悪質性が高い手段だと。そういうことで強烈な印象を植え付けたのかもしれないなというふうに、そのため裁判所の結論も異なってしまったのかなというふうに感じています。 ただ、この公表後、警察庁のほうから、こういう薬物が使われる、疑われるケースでは、しっかり証拠保全をするようにという事務連絡が出ています。現在も警察のほうでは、尿検査だとか毛髪検査だとか、そういったことが行われるようになって、この事件が起きた当時と比べると明らかに証拠保全、警察の動きは変わってきたのかなというふうに感じています。そういう意味で、公表したことによって性犯罪を取り巻く環境を変えていけたということに意義があったのかなと思っています。 全体を振り返って、詩織さんの公表後、先ほども詩織さん言ってましたけど、アメリカでの#MeToo運動だとか、日本でのフラワーデモだとか、自ら声を上げるという運動が広がっていきました。こういった行為に、私たちも訴訟をしながら非常に勇気付けられてきました。その点については本当に感謝しています。