じつは、はるかに離れた「2大陸で発見」されている…出現と広がりの「謎に光をあてる」アラスカで発見された「あまりに良好な状態の化石」
新種のパキケファロサウルス類である可能性
2005年にGangloffが報告した翌年の2006年、Sullivanによってパキケファロサウルス科全体を再評価する論文が発表された。この再評価ではアラスカ州の標本についても触れられ、新属新種であると判断されて「アラスカケファレ・ガンクロヒィ」と名付けられ、その重要性が強調された。 アラスカで見つかった恐竜の骨が新種と判断された理由は、骨の独特な形状と接続のしかたにあった。アラスカの標本は、これまで知られている恐竜とは異なる特徴を持っており、特に二列に分かれて並んだ突起が独特である。この突起の根元は多角形で、頂部がはっきりしている点が他の恐竜にはない特徴だ。 また、骨の接続部分も特別で、鱗状骨と方形骨が縫い合わせるようにつながっており、これは特定の恐竜にしか見られない構造である。このように、アラスカの標本は他の恐竜とは異なる特徴を持っていたため、新しい種類だということがわかった。
パキケファロサウルス類の故郷は中央アジアか?
この論文は、パキケファロサウルス類全体の再評価を目的としていたが、恐竜たちがいつ、どこから出現し、他の大陸に広がっていったのかという古生物地理学的な側面にも議論を広げている。 パキケファロサウルス科の恐竜はアジアと北アメリカ(アメリカとカナダ)で発見されており、大部分の標本はカナダのアルバータ州で見つかっている。これらの化石分布は、恐竜の移動や分布、成長過程を理解するうえで非常に重要である。 特に、カナダのミルクリバー累層から発見された標本は注目に値する。約8500万年前のこの地層から見つかった完全ドーム型の頭蓋骨を持つパキケファロサウルス科は、北アメリカで最も古いものであり、少なくともこの時代には完全ドーム型のパキケファロサウルス科が存在していたことが明らかになった。さらに、ユタ州のワフウィープ累層からも約8000万年前の古いドーム型のパキケファロサウルス科が発見されている。 アラスカで見つかったアラスカケファレは約7200万年前から7000万年前の地層から出土しており、これらの発見から、パキケファロサウルス科が南北に広がる広範な地域に分布していたことが示唆される。 さらに、Russellは、北アメリカの恐竜が中央アジアから移動してきた可能性を示唆しており、その移動ルートは現在のアラスカを経由していた可能性がある。アラスカの古北極地域で発見されたアラスカケファレは、この説を支持する証拠である。こうして、高緯度の地域にもパキケファロサウルス類が生息していたことがわかり、この地域が恐竜の移動ルートとして重要だった可能性が示されたのだ。 *好評の前回はこちらから*
小林 快次(北海道大学総合博物館教授)