四駆の欠点解消なるか マツダの“考える四輪駆動”i-ACTIV AWD
「少しも滑らせない技術」を構築
これだけではよく分からない。括弧書きの言葉全体を束ねるにはもう少し説明が必要だ。マツダの言う人間中心主義の機械とは、人間の出来ないことをバックグランドでこっそりリカバーするということだ。そのために「少しも滑らせない」ように「路面状態」「ドライバーの意図」「車両状態」を先読みして備える「認知」技術を構築したのである。 「少しも滑らせない」ためには、人が関知できない微少なスリップをセンサーで感知し、瞬時にトルクを後輪に流す。それによって前輪のスリップを未然に防止する。具体的にはパワーステアリングにセンサーを仕込み、路面からの反力を常時監視する。これが急減少すれば、前輪が微少スリップを始めたと見なす。 ただしこれだけでは不十分だ。もっと徹底した分析をしてケース分岐の精度を上げなくてはならない。そこで各種センサーを総動員する。アクセルの開度に対する加速量で勾配を、温度センサーで路面の状態を、ワイパースイッチによって降雨/降雪状況をという具合に無数のデータを取って条件分岐を見定める。これを1秒間に200回演算して、リアルタイムに必要なトルクを無段階でリヤに配分する。 先ほど「瞬時にトルクを後輪に」と書いたが、通常、生活四駆は燃費性能の向上とタイトコーナーブレーキング現象の抑制のためにフロントの2輪を駆動しており、滑ったら後輪を駆動するようになっているものが多い。そのオン/オフを瞬時にと言っても無理がある。ましてや秒間200回も演算したところで、機械的な切り替えがそれについて行かれない。 要は「切り替えるからいけない」のだ。かと言って最初からトルクを流しておけば前述の通りロスが生じる。そこでマツダはトルクを流す量を徹底的に減らして行った。具体的には1%に抑えたのである。こうなると実質的にリヤにはトルクは流れていないに等しいが、それでもオフからオンにするという制御はいらない。オンにした時にギヤなどのガタ(バックラッシュ)で生じる振動や衝撃もなくなり、それによる駆動力の急変も抑えられる。トルクの増減だけなら秒間200回の制御をすることも可能だ。 これはもちろん自然なフィールを目指して開発されたのだと思うが、マツダが力説するメリットはもう一つある。それは「滑らせるから無駄が生じる」ということだ。滑りやすい路面でタイヤが空転するということは、その駆動力は無駄になっている。これを余すことなく路面に伝えられたら、効率が向上して燃費が良くなるはずである。だから滑りやすい路面では「滑らない四輪駆動の方が二輪駆動より燃費が良い」というのがマツダの主張である。確かにその可能性はある。グリップの良い路面で二輪駆動の燃費を上回るのは流石に難しいだろうが、積雪期間の長いエリアで考えると、もしかしたら年間を通した燃費で二輪駆動を上回る可能性も出てくる。