ということで、四輪駆動の課題を整理しよう。 ■悪条件下 ・きちんと駆動すること ・自然なフィールであること ・特別な操作を必要としないこと ■良条件下 ・タイトコーナーブレーキング現象が起きないこと ・無駄なエネルギーロスが起こらないこと ・騒音振動などが大きすぎないこと ■切り替え時 ・特別な操作を必要としないこと ・極端に特性が変化しないこと 　要するに四輪駆動は良路と悪路ふたつの局面で、それぞれ違う性能が求められ、しかもその両方を瞬時に行き来するので、最適化するのがとても難しいのだ。

駆動力配分をリアルタイム最適化

　という長い現状説明の後に、ようやく本題に入れる。マツダはこれらの状況を改善するための新しい四輪駆動システムを開発した。i-ACTIV AWDと名付けられたこのアクティブ・オンデマンド四輪駆動システムについて説明していきたい。 　マツダが何をやったかと言えば、ざっくりと言うと電子制御による駆動力配分のリアルタイム最適化である。前述のセンターデフ各方式の様々な問題点を、電子制御で良いとこ取りすると言い換えても良い。マツダは「パッシブ・オンデマンド式の粘性（ビスカス）カップリングを電子制御多板クラッチに置き換えたシステム」だと説明している。さらにマツダの言葉を借りれば「人間が、認知・判断・操作できない部分をクルマ（i-ACTIV AWD）が肩代わりするということになる。その結果「どんな道でも安全・安心」にするのだと言うのだ。

[写真]センターデフとリヤデフを一体にしたケースは軽自動車並みに小型化。デフオイルの整流などによりロスを減らした設計になっている

　機械的構成を見れば、リヤデフに組み込んだ多板クラッチ式センターデフを電子制御の電磁石で適宜圧着する方式である。仕組みを言葉にすると簡単だが、それをどういう場面でどのくらい圧着させるかは、条件分岐が極めて複雑で、全自動であるが故に、その制御のケース分岐を徹底的に解明しておかないと変な時に変な作動をしてしまう。 　マツダはまず制御の原則をマツダのクルマ作りの哲学までセットバックして考えた。これがまたマツダらしく暑苦しい。「安全に安心していられるからこそ、楽しみを感じられる」「環境・社会に対して優しいからこそ、楽しみが感じられる」「だからこそ、走る歓びを感じられる」。それは「人間中心主義」だと言うのだ。