四駆の欠点解消なるか マツダの“考える四輪駆動”i-ACTIV AWD
マツダがここで燃費の話を強調するのは、燃費の問題を四輪駆動方式の重大な課題と捉えているからで、今回のシステムでは、駆動系にかかる負荷を徹底的に計算して小型軽量化を狙った。リヤデフの歯車の接触面積を解析してギヤサイズを軽自動車並みに小型化したり、アルミダイキャスト製のデフケースの応力解析をして補強リブを最小限かつ薄肉化することも進めた。またギヤが宿命的にかき混ぜるデフオイルの流れを整流板で整えるなどの対策がなされたと言う。ここまで小型軽量化できた理由を聞くと、エンジニアは「クルマのライフスパンを見通した上での余剰を徹底的に減らしたからです」と答えた。 これらの制御が緻密であればあるほど大事になるのはシャシーの性能だ。シャシーが悪ければタイヤが正しく接地できない。そうなれば秒間200回の制御に意味はなくなる。だからマツダのエンジニアは「i-ACTIV AWDが機能するのはSKYACTIV-CHASSISがあればこそです」と言うのである。
従順な四輪の駆動制御
さて、理詰めの話はそれとして、実際に乗ってみて良くなければ意味がない。北海道のマツダ剣淵テストコースで試してみた結果、確かにマツダの主張するようなものになっている。例えば、新雪の上り坂で、ステアリングをフルロックまで切って発進するというかなり意地の悪いテストでも、極めて素直に動き出すことができる。 さらっと読むと当たり前だと思うかもしれないが、これまでの四駆はそうなっていなかった。アクセルを踏むとまずは前輪がずるりと滑り、外側へ頭を振る。それからトルクがリヤに移って、イヤイヤをするようにノーズを左右に振りながら前へ進み始める。この辺りのマナーの向上はかなり大きいと感じた。 あるいはスラロームコースでは適切な進入速度の管理さえ出来ていれば、回頭後リヤがスムーズに滑り出し、アクセルで簡単に車両の向きのコントロールができる。雪道に慣れていない筆者は最初のテストで速度オーバーで進入してしまったが、その場合でもフロントがドリフトアウトするだけで、姿勢の乱れ方が途中で変わることはなかった。 登坂途中で停止してからの再発進も、ただアクセルを踏むだけでトラクションがかかる。全体に極めて従順な印象で、システムの介入に気づかされることもなく、自分の運転が上手くなったように感じた。 その後、CX-5を借り出して一般道を2時間ほどドライブしてみた。テストコースのような無茶はしていないが、多分状況的にはコース内より幅広い変化があったはずだが、全てを難なくこなした。 現在、様々な方式が入り乱れている四輪駆動システムはもしかしたらこの方向へ統合されていくのかも知れない。マツダはこのシステムをコモンアーキテクチャー(基本構成)として、全ての車種に同じ構成のまま組み入れると言っている。 しかもこの技術は今後おそらく、枠組みを超えて多くの発展を見せるだろう。マツダの提唱するバックアップ型の自動運転システムとも相性が良さそうだし、二輪駆動のトラクションコントロールやスタビリティコントロールにその一部が活かされていくこともあるだろう。今後のマツダにとって大きな意味を持つ技術になりそうである。 (池田直渡・モータージャーナル)