「親の反応が二次加害になりうることを知って」――記者が語る、子どもの性被害に大人は何ができるか #性のギモン
性教育の前提は、子どもの人権が守られていること
――子どもの権利条約が国連で採択されたのは1989年ですね。日本は1994年に批准しています。 「日本はこの30年、諸外国と比べても、子どもの権利について停滞していると感じます。子どもの意見を尊重する仕組みには、子どもアドボカシー活動や子どもコミッショナー制度などがあります。日本では、こども家庭庁の発足、こども基本法の制定と並ぶ3本柱の一つとして求められていた子どもコミッショナー制度の導入が、政治家や中央官庁の理解が得られず見送られ、子どもの権利についての意識がまだまだ低いことがあらわになりました。もちろん若い世代には意識のある親もいると思いますが、社会全体としては『子どもに意見を言う権利なんて認めたらわがままになる』という感覚が根強く残っているのではないでしょうか」 「こうした意識は、性教育にもつながっています。いま世界で性教育のスタンダードとされている『包括的性教育』は、性の多様性やジェンダー平等といった内容を含み、一人ひとりの人権を尊重するという考えの上に成り立っています。ところが日本では、性教育というと性と生殖に関する知識に偏りがちで、人権や権利という視点から扱うのは得意ではありませんでした。性暴力に特化して、触ってはいけません、見せてはいけませんと教えることも大事ではありますが、禁止のオンパレードでは包括的性教育とかけ離れてしまいます。前提としてまず、子どもたち一人ひとりの人権が守られていなければいけないと思います」
――包括的性教育によって子どもの性被害は減ると思いますか。 「減ると思います。人権や平等を基盤にした包括的性教育を、年齢に応じて全員が受けることができれば、加害者を生み出さないための力になると思います。私はいま性暴力の加害者の取材を進めていますが、加害者には加害に至るまでの過程があり、さまざまな被害経験が加害につながることも少なくありません。被害者を減らすことは、将来の加害者を減らすことにもつながります」 ――親はどうすればいいのでしょう。 「子どもと一緒に学んでいけばいいのではないでしょうか。今の子育て世代は、性教育を受けていない人が大半ですよね。私もそうでしたが、性ってなにか秘め事で、恥ずかしいことだと親世代は思っている。今になって性教育は人権を尊重することなんだと言われても、心の底から『なるほど!』と思うのは難しいかもしれません。でも最低限の認識を持つことは必要ですし、知ったかぶりをせずに学んでいくことが大切だと思います」