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これまでの性教育はどうだった? みんなで考える性の学び方 #性のギモン

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全国のほとんどの学校で夏休みがスタートする7月。子どもたちの自由な時間が増える一方で、性に関するトラブルも懸念される。日本の性教育については学校内外で議論になっており、「世界と比較して後れを取っている」と指摘する声もある。Yahoo!ニュースがコメント欄で、性教育について意見を求めたところ、1000件を超えるコメントが寄せられた。コメント欄からは、「今の大人が十分な性教育を受ける機会がなかったために、知識を持っていない」などの声が浮かび上がってきた。(6月8日~7月5日のコメント、計1090件を基に構成)(Yahoo!ニュースオリジナル特集編集部/監修:「"人間と性"教育研究協議会」代表幹事・水野哲夫)

コメント欄の言葉 ワードクラウドで分析

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(頻出単語の一部を編集しています)

「学校の性教育について、あなたはどう思いますか?」という問いかけについて、ユーザーは、どのような言葉を使って思いを記したのか。多く使われた言葉が大きく表示される「ワードクラウド」を使い、その分析は議論の特徴を引き出せるよう、独自の手法を用いて行った。同じ色のワードは、関連の強さを表現している。

まず、「性教育」「av」「避妊」「教育」が目立っている。「av」については、コメント欄の中では、「授業ではわからずAVを見て学んだ」のように使われていることが多かった。

また、色ごとにみてみると「性教育」は「タブー」「ジェンダー」「日本」「少子化」「先進国」「欧米」「産みやすい」などの言葉と関連が強い(緑のグループ)。コメント欄では日本の性教育の課題や、海外との比較の文脈で出てきていた。さらに、「避妊」の関連としては「中絶」「妊娠」「性行為」「性病」「産婦人科医」(赤のグループ)などがあがっている。どんな授業だったか、という説明でよく使われた単語だった。

学校の性教育については賛否が分かれた

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ここからは、コメント欄に寄せられた意見やエピソードを、より具体的に紹介する。

学校で具体的に習った内容としては「受精」や「生理」については学んだとする声がある一方、「どうやって子どもができるかはわからなかった」との声が多かった。義務教育で性交について教えないように定める「はどめ規定」の影響が感じられた。授業の形式として「男女別で受けた」「女子だけ呼ばれた」としている人も多かった。「どんな内容だったか覚えていない」という回答も多数あった。

授業が役立った、とする声の傾向としては、「助産師が避妊具の付け方や中絶について、映像や体験を交えて教えてくれて引き込まれた」など、内容に具体性を持ったものが多かった。「避妊についてびっしりレポートを書く課題があった。良い機会だった」といった意見もあった。

家庭での性教育、賛成しつつも実際は難しい?

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学校だけではなく、家庭でも性教育が必要とする意見が多かった。「15歳で初めて彼女ができたときに、母親から出産にはいくらかかるかなどを聞いたことが印象的だった」など、家庭での会話が役立ったとする声も見られた。一方で「仕事としてならできるが、家庭では教えたくない」「親は隠したがっていた」など、親と子、双方の立場から、性に関して話をするのは難しいといった声もあった。「親がきちんとした教育を受けていないので教えられない」との意見も。一方で、子どもが生まれて「勉強をしはじめた」という人もいた。

「もっと知りたかった」などさまざまな意見が

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性教育そのものについて、さまざまな意見が寄せられた。「20代後半から妊娠や健康のため、数年間、服薬や治療をしていたが、それまで知らなかったことが多く本当に驚いた」など、大人になってから性について詳しく知り、「包括的な教育を中学生くらいから行うべきだ」といった声があった。「根本的に必要なのは、自分の体も、他人の体も大切にする知識と意識。学校でうまく伝えられたら」との意見も。「自分の時は学校で教わったことが全てだと思っていましたが、そうではないと漫画などで知り、恐怖や不安しかなかった。恐怖や不安を感じず、男性女性関係なく妊娠に対して明るいイメージを持てるようにしてほしい」との希望もあった。

日本の性教育の傾向は?

日本での性教育の現状や国際的なスタンダードとの違いについて、長く学校での性教育に携わり、その現場を見てきた「"人間と性"教育研究協議会」の代表幹事・水野哲夫さんを取材した。

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1953年、長野県生まれ。98年に大東学園高校(東京都)で「性と生」の授業を開始。現在は非常勤で複数校を担当する。"人間と性"教育研究協議会(性教協)代表幹事。

今回、コメントにも「性教育」を受けた経験がない、思い出せない、という声が寄せられた。また、「性教育」という言葉から受けるイメージが人によって差が出やすい傾向も見えてきた。こうした背景には、性教育を実施する機会の少なさや、扱う内容の乏しさ、偏りがあると水野さんは話す。欧米や韓国・台湾などのアジア諸国・地域に比べてそもそもの授業数が少ない上、保健体育として扱われることも多い「身体」「妊娠」「性感染症」 「月経」「射精」といった内容が大勢を占めるという。

水野さん
水野さん
日本全国の一定規模以上の中学校724校を対象にした調査(橋本紀子、茂木輝順ら:2017年)によれば、中学校での性教育の授業数は、平均して3年間で8.62時間ほど。1年間では3時間にも満たないんです。例えばフィンランドの中学校では、年間約17時間、韓国では年間15時間程度が標準とされています。日本の学校での「性教育」は全教科で扱うとされていますが、基盤となる根拠法はなく、最小実施時間のめどもありません。

世界では、人権教育でもある「包括的性教育」がスタンダードに

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海外に目を向けると、1990年代ごろから性教育の目的や内容を示すガイドラインの策定が進んできた。2009年にはユネスコが、世界中の性教育の専門家の研究と実践を踏まえた「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を発表(2018年に改訂)。性教育は性行為や生殖にとどまらず、人間関係やジェンダーの理解、価値観や文化なども包摂する「包括的性教育」として位置づけられている。性教育は子どもや若者にとっての課題というだけでなく、人間の生き方そのものに関わるテーマとなっているのだ。このガイダンスに基づき、さまざまな国で包括的性教育が行われている。これらのコンセプトに基づいた教育を、初等段階(5歳~)から年齢に応じて進めていく。教育をする場も、学校だけではなくて社会や家庭も含めて進めていくという意味での包括性もある。

水野さん
水野さん
私自身も、昔は体の仕組みを中心に教えていました。2010年ごろからは、ユネスコの「ガイダンス」に学び、包括的な性教育に取り組んでいます。多様性を性教育の基盤に据えながら、人間関係や性の商品化、性暴力など社会のなかの性と生の問題なども含めて取り扱う形です。私たち自身が多様な性を織りなしているという認識、性は多様だという意識を持つことを最初に教えていますね。

包括的性教育は、性に関する知識や判断力だけでなく、人権やジェンダー観、多様性、文化、人間関係、幸福などを広く学んでいくものです。年齢や学年で学ぶ内容を分断するのではなく、8つのコンセプトに基づいた内容を、年齢に合わせて内容を深めながら繰り返し学んでいきます。

どうやって学んだらいいの?子どもにどう教えたら?

一部の学校や自治体では、包括的性教育に取り組む動きも出てきている。一方で、家庭での教育を考えた場合、教える大人の側が必ずしも「学んでいない」という懸念もある。水野さんは、「大人にこそ性の学びが必要です」と力説する。

水野さん
水野さん
子どもへの性教育の必要性が各方面から語られています。もちろんそれはその通りです。しかし、忘れてならないのは、大人も性についてきちんと学んだ経験のない人がほとんどであるということではないでしょうか。大人にこそ性の学びが必要、という視点を忘れないようにしましょう。
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記事に寄せられたコメントからもわかるように、性教育という言葉からイメージする内容や知識は世代や受けた教育の内容によってもバラつきがある。知らないことがあって当たり前という前提に立ち、抱いてきた「常識」も点検しながら、信頼できる発信源を通じて「性」に向き合っていくことが大切だろう。

水野さん
水野さん
手始めに、基本から学べる以下のようなサイトをチェックしてみるのもいいでしょう。お子さんと一緒に見ながら会話する、というのもいいかもしれません。「セイシル」/「HAPPY LOVE GUIDE」/「命育」


#性のギモン」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の1つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。

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