「痛みの少ない注射針」の意外な開発裏話、テルモ開発者が「当たり前」を超重視するワケ
数々のME(Medical Electronics:医用電気)機器を世に送り出してきたテルモ。同社で、糖尿病治療のインスリン注射に用いる「痛みの少ない」ペン型注入器用注射針を開発したのが、同社湘南センター センター長 技術統括室 室長の大谷内 哲也氏だ。大谷内氏が開発した0.2ミリという世界一細い注射針は、2005年度の「グッドデザイン大賞」にも選ばれ話題を呼んだ。製品開発に携わるにあたり、どのような視点を大事にしているのか。革新的な製品を生み出すための秘訣について大谷内氏に聞いた。
「極細」注射針開発のきっかけとなった「ある一言」
(アクト・コンサルティング 野間 彰氏)──大谷内さんは糖尿病治療に用いられるペン型注入器用注射針をはじめ幅広い分野の医療機器を開発されています。まず、開発者として大事にしていることを教えてください。 大谷内 哲也氏(以下、大谷内氏):研究開発においては、「ぶれることなく実現できるまで徹底的に考え行動すること」を大事にしています。そうすれば、難しいプロジェクトであっても実現できる可能性が高まります。 糖尿病治療に用いられるペン型注入器用注射針の開発では、0.2ミリという世界一細いインスリン用注射針「ナノパスシリーズ」の開発に成功しました。 この注射針を開発するきっかけとなったのは、糖尿病の子どもの患者さんに“注射の針が痛い”と言われたことです。 糖尿病でインスリンの自己注射を行う患者さんの中には、1日に何度も注射をしなければならない人もいます。インスリン注射を止めることはできなくても、その痛みを少しでも和らげることに貢献できると考え、従来の注射針よりも約20%細い注射針を約5年かけて開発しました。 ──ナノパスシリーズの開発において、どんな技術がブレイクスルーにつながったのですか。 大谷内氏:丸棒や円管状の線材やパイプ材を任意の径に絞る「スウェージング」という加工技術です。技術者の直感としては、サイズの違いこそあれ、素材としての金属は伸び縮みするし、加工は可能ではないかという思いがありました。ただ、とてつもなく難しいだろうなと思っていたところ、ガスコンロのセンサーのような、6ミリぐらいの細い形状に加工するのに「丸める」技術があることを知り、そこから議論と試作を重ねたところ、うまく針の形状に“丸める”ことができました。