「デジタル田園都市」構想における政治思想と都市思想の源流
2021年、岸田文雄首相は「デジタル田園都市国家構想実現会議」を設置しました。事務局である内閣官房のホームページを見ると、「地方からデジタルの実装を進め、新たな変革の波を起こし、地方と都市の差を縮めていくことで、世界とつながる『デジタル田園都市国家構想』の実現」といった文字が踊ります。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、この岸田政権の目玉構想について、「岸田政権の思想的源流が読み取れる」と言います。現政権が目指す新しい資本主義の方向性について、若山氏が独自の視点で語ります。
自然か文明かリアルかサイバーか
岸田政権の目玉である「新しい資本主義」のひとつの骨は「デジタル田園都市」構想である。デジタルと田園と都市をくっつけたものだが、よく分からないという声もある。まず「田園都市」というものが、田舎なのか都会なのか分からない。そこにデジタルがつくとよけい分からない。 しかし僕ら建築家は、この「田園都市」という言葉に、近代都市計画の思想の歴史を感じる。実は、高級住宅地の田園調布も、多摩ニュータウンも、東急電鉄の田園都市線も、昨年の大河ドラマの主人公渋沢栄一も、それぞれ田園都市にかかわっているのだ。 ひとことでいえば人間は「田園=自然」と「都市=文明」との二つの環境を同時に求める贅沢な生き物であり、「田園都市」とはその両方の欲求を満たす理想郷なのである。これは大平正芳元首相が政策の目玉としたものだが、池田勇人元首相の「所得倍増」、大平の盟友であった田中角栄元首相の「列島改造」につづく、日本資本主義のひとつの方向性(国家より民生を重視する)を示す。宏池会出身の岸田文雄首相は、その大平元首相の構想を受け継ぎながら発展させたいという考えだろう。 そこに「デジタル」が加わるということは、時代が工業文明から情報文明へと変化していること、前任者の菅義偉首相によるデジタル化推進政策とデジタル庁を受け継ぐこと、「リアルの空間=田園(自然)空間+都市(文明)空間」に、新しく「サイバー空間」を加えることを意味する。ここで以上のような歴史的な視点から、現政権が目指す新しい資本主義の方向性を読み解いてみたい。