岸田政権目玉の「新しい資本主義」は古い? 本当に必要なのは「魂の資本主義」
昨秋、自民党総裁選に勝利し、内閣総理大臣に就任した岸田文雄氏。就任後、まもなく自らが議長となる「新しい資本主義実現会議」を発足させ、「成長と分配の好循環」「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに有識者との話し合いを進めています。 コロナ禍の新年に考える「神社参拝とデジタル・コミュニケーション」 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、岸田総理のこの目玉政策について「優等生的で、爆発的な突破力は感じられない」と感じており、「もう一度、資本主義の原点に立ち返る必要があるのでは」と考えているようです。それでは、若山氏が考える資本主義の原点とはいったいどんなものなのでしょうか。独自の視点から論じます。
新しいのか、古いのか
岸田政権の目玉となる基幹政策は「新しい資本主義」だ。 特に「分配」を重視するというが、雑誌『文藝春秋2月号』に寄稿された岸田文雄総理の文章を読むと、多方面に目配りが利いて、これが実現できるなら大いにけっこうと、賛同せざるをえない。しかしいかにも優等生的で、爆発的な突破力は感じられない。逆に現代のグローバルな資本主義が切り開いた先鋭力をくじく恐れはないだろうか。「新しい」というよりむしろ「古い」修正資本主義の匂いを感じる。 一方、斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』も話題になっている。たしかに私利私欲追求の資本主義が壁につきあたっている中で「コモン(共有)」という概念が重要な意味をもつことはたしかだろう。しかし僕ら建築家は、これまでの設計でコモンの空間を追求してきて、それがいかに実現しがたく、上手に利用されにくいものであるかということを身にしみて知っている。スターリン粛清や文化大革命や過激派学生運動が歴史の彼方にかすみつつある現在の若い人たちは、マルクス主義の理想と現実のギャップに対する実感がないのではないか。 そしていずれにおいても、このところ幅を利かせてきた新自由主義的な市場重視の結果としての格差拡大と、温室効果ガスによる地球規模の気候変動の加速が前提である。この資本主義に対する二つの反省が現在、世界のコモンセンスとなっていることはたしかである。