なぜ横浜DeNA牧秀悟は史上初の新人サイクル安打を達成したのか…“虎”佐藤へのライバル心と“番長”が仕掛けたチーム内競争
「ヒットを打つことを狙っていて、結果スリーベースになったらいいな、というくらいの気持ちでいた。あまりいいヒットではなかったが、記録として残ったので良かったです」 無欲のヒットの延長が呼んだ奇跡だったのかもしれない。 ルーキーとして史上初の快挙を達成した背景に3つの理由がある。 一つ目は“天敵攻略”への執念だ。 「チームが勝って凄く嬉しいし、個人としても、こういう名誉なことができたのでいい試合だった」 チームはルーキー伊藤将に4戦3敗とカモにされていた。変則フォームから繰り出される低めの「ゴロゾーン」に動くボールの餌食になるパターン。18日の対戦でも2得点しか奪えていない。5度も同じ相手にやられたらもうプロ失格である。牧は個人記録以上に天敵をマウンドから引きずり下ろすため、低めの動くボールを引っかけずに右方向へ打ち返す攻略法を先陣をきって実践したのである。 二つ目は三浦監督が後半戦に仕掛けたチーム内競争がある。 三浦監督は後半戦の開幕第2戦となる17日の阪神戦で牧をスタメンから外した。 中央大からドラフト2位で指名された牧は、序盤戦、新型コロナ禍でソト、オースティンの来日が遅れ、開幕に間に合わない中でチームの救世主となった。打率は3割を超え、本塁打でも阪神の佐藤と競り合った。だが、本人が「試合数とナイター移動やデーゲームとか、テレビで見ていた以上に過酷なものがある」と言うほどのプロ特有の遠征、連戦の疲れで一つ目の壁にぶつかった。 相手バッテリーの研究も加わり打率は急降下。負のスパイラルにはまりかけた。だが、それも8時間以上の睡眠などで克服し、ようやくV字回復していたが、指揮官は、柴田が怪我から完全復帰してきたこともあり、後半戦からは右投手には柴田、左投手には牧のツープラトンの起用法を採用した。 後半に入ってから9試合で牧のスタメン出場は4試合にとどまっている。“番長”には相手投手の攻略と同時にチーム内の競争力を高めたいという狙いがあり、柴田は19日の阪神戦ではヒーローとなっている。 「使ってくれるときは思い切って結果を残そうというなかで結果が出ている」と牧も言う。3つ目は阪神の佐藤の存在である。 共に大卒ルーキーで同世代。全日本の合宿で一緒になったこともあり、試合前には、必ず近況報告をしあう仲。牧は、毎試合、佐藤の結果を気にしているほど意識している。 「佐藤に本塁打では勝てないが打率で上回って新人王を狙いたい」 後半戦、最初の阪神戦では、その佐藤に2本塁打の大活躍を目の前でされた。スタメンを外れていた牧の忸怩たる思いは想像できる。最後の打球が、その佐藤のところへ飛び、打球処理に躊躇させたことも、ある意味、運命的ではあった。