トランプ次期大統領が画策するウクライナ戦争の停戦・和平交渉、ウクライナの“中立国化”が現実的ではない理由
■ ウクライナが「条約など当てにならない」と痛感したブダペスト覚書 では、ウクライナはスイスのように永世中立国化できるのかというと、あまり現実的とは言えないだろう。 まず大前提として、侵略の張本人で停戦・和平交渉の交渉相手となるかもしれないロシアのプーチン政権は、ウクライナの非武装中立を強く求めており、自国軍による本土防衛が必須の永世中立はなじまない。 また主要国や国連が中立を認め、独立も保障しなければならないが、ゼレンスキー氏にとってこれほど当てにならないものはないはずだ。 冷戦が終わり1991年に旧ソ連邦が崩壊すると、ウクライナ保有の核兵器は旧ソ連の国際的権利の大部分を継承したロシアに加え、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに“分割相続”された。 このため核拡散を憂慮する米英露は、ウクライナなど3カ国の全核兵器をロシアに移設し、代わりに米英露の国連安保理常任理事国(核保有国でもある)が名誉にかけて核を放棄した3カ国の安全を保障する、という中身の「ブダペスト覚書」を1994年に締結した。 だが本来ウクライナの安全保障に責任を持つべきロシア自身が、2014年にウクライナ領のクリミア半島を占領し、2022年には全面侵略戦争を仕掛けるありさまで、「ロシアと停戦協定や和平条約を結んでも単なる時間稼ぎに過ぎず、もう二度とだまされない」というのが、ゼレンスキー氏の心境だろう。 また永世中立を選択すると、外国との軍事条約締結や軍事援助の享受もご法度のため、ウクライナにとっては極めて不利だ。悲願のNATO加盟はもちろん、加入国の軍隊からなる「欧州合同軍」を設置するEUへの加盟も絶望的となる。 加えて、ウクライナ戦争では米英仏などと個別に安保協力協定を結んでさまざまな軍事支援を受けるが、これも破棄しなければならない。 さらに外国軍の国内駐留も不可だ。例えば停戦後のウクライナの安全を確保するため、英仏独など西側支援国の軍隊(トランプ氏は米軍を派遣しないと公言)がPKF(平和維持軍)として軍事境界線沿いに張り付きロシア軍をけん制することはもちろん、国連PKFの駐留さえ難しいかもしれない。