なぜC大阪のクルピ監督は38歳の大久保嘉人を先発で使い、男もまた5222日ぶり凱旋ゴールで応えることができたのか?
ゴールより退場が目立った日本代表時代にはじまり、充実した時間をすごした川崎フロンターレ時代の前後、ヴィッセル神戸やFC東京、磐田での日々を大久保はこんな言葉で振り返ったことがある。批判をエネルギーに変えてきたサッカー人生を、柏戦後にはいま現在にリンクさせている。 「周りが何かを言うのは簡単なので。ボールに触れば、あとはボールが来ればできるという自信はもっていました。なので今日に懸けていたというか、結果を出したい気持ちで試合に入りました。みんな意識して(自分を)見てくれるし、単純ですけどボールも当ててくれる。自分はそれでリズムを作っていくので、非常にやりやすかった、というのはありますね」 引退の二文字が脳裏をよぎりはじめ、かなわぬ夢だと承知の上で、幾度となく「最後はセレッソで」と考えはじめた矢先に、古巣から望外のオファーを受けた。2006シーズン以来の復帰。当時のチームメイトだった森島寛晃が代表取締役社長を務める現状に、時間の流れを感じずにはいられなかった。 そして、森島とともにセレッソをけん引してきた当時の大先輩で、いま現在は選手代理人としてセカンドキャリアを歩む西澤明訓の象徴だった「20番」を新たな背番号として選んだ。 「長居でアキさん(西澤)の『20番』が似合うような選手に成長したいと、ずっと自分は思ってきたので。まだちょっと違和感がありますけど、その背番号で長居のピッチに立てたことで『やらなきゃいけない』という気持ちにもなりました」 先制ゴールを決める7分前の前半35分には、マルこと左サイドバックの丸橋祐介から繰り出されたロングパスに反応。最終ラインの背後へ抜け出しかけた大久保を倒した柏のセンターバック、上島拓巳に一発退場が宣告された。柏のネルシーニョ監督も勝敗の分岐点になったと振り返る。 「退場者が出てしまってからは相手の守備のバランスも落ち着き、一人足りない分、どうしても生じてしまうスペースを使われて攻撃の形を作られてしまった。一人足りない状況は最後まで今日の結果に響いたと思っている」 ゴール以外でも勝利に貢献した大久保の先発を、さすがに予想できなかったからか。前人未踏の3年連続得点王を獲得した川崎時代からスタンドに定着してきた、大久保のJ1通算ゴール数を表す横断幕の『YOSHI METER』が急きょヤンマースタジアム長居に、しかも手書きで登場した。 白い布地に黒いマジックペンで書かれた『YOSHI METER』の下には『186』が添えられている。こちらも前人未踏となる、J1通算200ゴールへの再出発へ「まあ、まだまだなので。頑張りたいですね」と苦笑した大久保だが、磐田時代には胸中に抱く本音を明かしてくれたこともある。 「日本で誰も達成していないからね。自分が一番先に記録を作り歴史に名前を刻みたい、とずっと思い続けてきたので」 もちろん、ストライカーならば誰でも抱くエゴイスティックな一面よりも、チームの勝利を最優先させる姿勢は昔もいまも変わらない。6月には39歳になるベテランが漂わせる温和さとゴールハンターの獰猛さとを同居させた視線は、かつて慣れ親しんだ等々力陸上競技場に乗り込む3月3日の次節へ、ACLの関係で前倒しされる形で開催される川崎との対決へと向けられている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)