総選挙「絶対に避けられない」2つの厳しい議論、裏金問題のほかに、経済政策は深い議論必要だ
議論の材料となるデータは、すでに2024年7月に「公的年金財政検証」として公表されている。そこではいくつかの大きな問題が示されている。 それにもかかわらず、公的年金は制度が複雑で、専門的な用語が多いため、議論は専門家集団の中のものに限られている。 政府の情報提供も十分とは言えない。 こうした状況は大いに問題だ。以下では、いかなる論点があるかを、分かりやすく示すこととしよう。 第1に、3号保険者問題がある。これは、サラリーマン家計の専業主婦が、国民年金制度の3号保険者とされ、保険料を支払わなくても基礎年金を受給できることだ。共働き世帯や、夫が国民年金加入の場合と比較すると、優遇されているという批判がある。
第2に、退職老齢年金の問題がある。年金支給開始年齢である65歳に達しても、働いて給与所得を得ていると、年金の一部を削減されるという制度だ。高齢者の就労が望ましいとされているにもかかわらず、この制度は、高齢者が働き続けることの障害になる。そこで、この制度を廃止すべきだとの意見がある。 第3に、国民年金の所得代替率低下の問題がある。これは、国民年金の給付が今後減少してしまうという問題だ。非正規就業者の多くは国民年金に加入しているので、今後大きな問題になる危険がある。そこで、いくつかの方法によって、基礎年金の給付額を増やすことが検討されている。
■長期的な成長戦略が必要 日本経済の衰退がさまざまな点で指摘されている。今後、人口の高齢化がさらに進み、労働力が不足することから、放置すればこの傾向がますます深刻化することが懸念される。そこで生産性を引き上げ、長期的な成長を可能にすることが、極めて重要な課題だ。 ところが、これまで、満足できる成長戦略が、政府からも野党からも提示されていない。石破氏は、自民党総裁選の過程で地方創生を強調したが、成長戦略としては力不足だ。デジタル化やAIなどの問題も含んだ長期成長戦略が議論されるべきだろう。
野口 悠紀雄 :一橋大学名誉教授