国立天文台、三鷹移転100周年。「天文学」の神秘を「声」で表現するイベントで思ったこと
山崎さんにいくつか話を聞いてみる。 ――声で表現をするアーティストになったきっかけはどういうものでしたか? 「声に特別な関心を持ったのは、母の声を骨格を通して聞いたのが最初でした。保育園の参観日でたくさんの“母親”たちの声をいちどきに聞いたとき、自分の母の声だけが口腔内で滞留し、くゆって外に出てくるように聞こえて、骨や筋肉が声として見えてくる経験をしました。それ以降、人の声を聞くときに骨を透かして見るように聞き始めました」 ――パフォーマンスをしているときにはどんなことを考えているのでしょう? 「空間の素材(建材)、構造、サイズによって声の反射の仕方が違うので、声を変えながら反射の具合の変化を聞いています。この声だと天井の木材は反応するけど、天井と壁をつなぐ金属は返答がないな、声を変えてみるか、あ、この声は床をよく走る、じゃあこの声だと…、窓のガラスか…と、ダウジングで水脈を見つけるように、声を変えながらコミュニケートしてくれる素材や部位を探しています。これは言語的な呼応ではなく、意識のフィールドに数兆個の箱が並んでいて、それをずっと組み替えているようなイメージがあります。解を出さないアルゴリズムをずっと走らせているような感じです」 ――今回のイベントについてはいかがですか? 「100年を祝うために100年よりずっと前、望遠鏡を使わずに自分たちの眼で夜空を見上げていた時代を思って歌うところからパフォーマンスをスタートしました。見つめるほどに見つかる星たちが夜空をともしていくイメージ、人の眼で見る宇宙を歌う。11月の空は、日によって、月といくつかの惑星がそれぞれ寄り添う場面があります。黄道と白道が織りなす流れや、秋の大四辺から見上げたところにあるアンドロメダ銀河の輝く様子を歌いました。この後は、石垣さんのレクチャーに沿って、ファーストスターが生まれる様子、シリウス・ベテルギウス・太陽のスペクトル解析から作った音を声で表現し、様々な光が混じり合う状態から何筋かの色彩に分光される様子を歌いました。そして人間、つまり、私、私たちがどこからどうやってここにたどり着いたのか、ファーストスター/密度ゆらぎ→ビッグバン→インフレーション→量子ゆらぎと遡って表現していきました」 宇宙を想えば、あまりに小さな存在の人間だが、人が意思をもって行うパフォーマンスを同じ人である自分だから、表現や感情を捉えられる。それを受け取るうちに、哲学的な思考がぐるぐると回り始める。 「宇宙はどのように生まれ、始まったのか。 そして、わたしたちは、どこから来たのか。 わたしたちは、どこへ行くのか。 わたしたちは、どこから来なくて、どこへ行かないのか」 石垣さんの説明は我々の興味をぐいぐい引き付け、山崎さんの声はどの場面でも美しく響く。なによりも、人間がある程度ギリギリ実感できる100年という時間(それはたとえば祖父母から現在の自分、あるいはそのそれぞれ少しずつ重なり合う人生かもしれない)を物差しにして、それをあとさきに伸ばした悠久の時間について考えることができた、そんな機会でもあった。
TEXT=鈴木芳雄