乳牛にとっての''あたりまえ''。『ワイルドミルク』が生む循環型酪農
── 最近は、供給過多によって牛乳が余っているというニュースを目にすることも増えました。 山本 牛乳って、作りすぎて余ってしまうとダメなんです。ナマモノなので。だから、メーカーは年間の生産計画を作って、その範囲の量しか受け入れないということにしています。つまり、自分の意思でやりたいことができるわけではなく、仕組みのなかでやるしかないというのが酪農の実情なんですよ。 ── 「言われた量を作る」という感じなんですね。 山本 言われた以上の量を出しちゃうと、怒られるんですよ。「計画通りにやってください」って。うちで作っている牛乳は、93%が『養老牛放牧牛乳』という自社ブランドとして出していて、残りの7%は農協さんに卸しています。なぜかと言うと、牛ってお客さんが求める量の乳を出してくれるわけではないんですよ。足りないか余るのどちらかなので、余った場合には農協さんに持っていってもらってます。 特にうちの場合は自然繁殖で完全放牧だから、種がつけば子牛が産まれて乳を出してくれるし、草の仕上がりが悪ければ乳量が減ることもあります。だから、雪が溶けて青草を食べ始める6、7、8月は乳量が多くて、それ以外はカツカツという状態なんです。冬は注文に対して牛乳が足りなくなることもあるので、その都度お客さんには謝っています。
── そういう大変さを背負ってでも、自分の納得のいく酪農を選びたかったんですか? 山本 そうですね。もともとは、ものづくりに関心があったんですよ。木工のさかんな旭川の大学に通っていたこともあり、30歳を過ぎたあたりで木工の勉強をして家具職人になるのもいいなと思っていた時期もありました。だけど、それで家族を食べさせていくには、何十年もかかるなと思って。 それでも北海道で、ものづくりをして生きていきたくて酪農にたどり着きました。最初から酪農をやりたかったわけじゃなくて、北海道の自然のなかで暮らしたいのと、ものづくりをしたいという両方を実現できるのが酪農だったんです。そういう気持ちで始めたので、やっぱり他の人と同じことはやりたくなかったんですよ。だから、主流ではない放牧の道を選んだというのもあったと思います。 ── 酪農をものづくりと捉えるのは面白いですね。確かに山本さんのお話をうかがっていると、牛乳を作るのはひとつの表現なんだなと感じます。 山本 牛乳って、メーカーに卸すと全部同じ値段での買い取りになるんですよ。放牧かどうかは関係なく。ものづくりをする立場からすると、それはちょっと嫌だったんですよね。