乳牛にとっての''あたりまえ''。『ワイルドミルク』が生む循環型酪農
草も牛も人間も循環していく未来を目指して
── 完全放牧、自然交配など、自分の理想とする酪農を次々と形にしてきた山本さんですが、次にやろうと思っている取り組みがあれば聞かせてください。 山本 今は、山本牧場のなかにあるものは他所に持ち出さず、自分のところで作ったものは自分のところで処理することにこだわっています。それが循環型農業だと思うので。 例えば、夏は外で青草を食べますけど、雪が降ってからは餌場で干し草をあげるんです。それを、今年からは放牧地であげるようにしました。そうすると放牧地で糞(ふん)を落としてくれるし、食い散らかした草があっても大地に戻るという循環が生まれます。そうやって、自分のところで出たものは自分のところに返す取り組みを真面目にやっていきたいですね。 ── まずは山本牧場の中での循環をつくっていく。 山本 あとは土壌の改良をやりたいと思っています。今まで牧草は自然に生えてくるのに任せていたんですけど、次の春には種を撒こうかなと。地面って草が生えている表面があって、その下には20~30センチくらいの土壌の層があって、さらに下は硬盤層というカチカチの土になっているんですよ。土壌は本来20センチくらいあるのに、うちの牧草地ではちょっと薄くなってきていて。要するに土地が痩せてきているんですよね。 そうなったときに、普通は機械を使って土地を起こすんですけど、それだと土壌のなかの微生物が死んでしまうんです。だから、いろんな植物を植えて、下に伸びる根で硬盤層を掘っていこうかなと考えています。 ── 植物の根で、土をほぐすということですか? 山本 そうです。今までは横に根が伸びる草を選んでいたんですけど、だんだん土地が痩せていくから、別の植物によって土地を耕してみようかなと。根っこによる開墾(かいこん)ですね。そういうやり方があることを知って、これは面白そうだと思ったんです。
山本 酪農の仕事って、大地や天候などから自分なりに情報を仕入れて、足りていないことを補ったり、ダメなところを手直しすることの繰り返しなんですよ。だから、まだまだやれることがあるし、いつまでも飽きることはないですね。 ── そういう繰り返しによって理想を追求してきた結果、今の時代に必要とされるものづくりの姿勢に近づき、こだわっている部分の付加価値もちゃんとお客さんに伝わるようになったんですね。 山本 そうだと思います。今よりも規模を大きくしたいとは考えていないので、これからも自分が納得できる酪農を続けていきたいですね。 今は息子も一緒に仕事をやってくれているんですよ。彼には彼のビジョンもあるから意見がぶつかることもありますが、うまく折り合いをつけながらやっていきたいなと。草も循環しているし、牛も循環しているから、人間も循環していけたらいいなと思っています。
取材・文 : 阿部光平 撮影 : 中西拓郎 取材 : 徳谷柿次郎