乳牛にとっての''あたりまえ''。『ワイルドミルク』が生む循環型酪農
── 山本さんにとっての牛って、どんな存在なんですか? 山本 昔はね、家族だったんですよ。僕がお父さんであり、お母さんでもありという感じで牛と接していました。だけど、自由にやらせすぎた結果、もう僕の言うことは聞かないんですよ(笑)。 前は牛舎から呼ぶと歩いてきたけど、今は後ろに回って行くぞって言わないと動きませんから。それはちょっと寂しくもあるんですけど、しょうがないですね。だから、今の関係性はアパートの同居人って感じかな。 ── それはまさに野生化しているってことなのかもしれないですね。 山本 そうですね。厳しい環境のなかでも自分たちで生きようとしているし、そういう牛たちのエネルギーや生命力が、そのまま牛乳に返ってきているんだと思います。
ものづくりとしての酪農
── 長く仕事を続けてこられて、酪農を取り巻く環境意識に変化を感じることはありますか? 山本 ありますね。今では考えられないですけど、昔は牛のおしっこを川に流す農家さんもいましたから。だけど、それが原因で漁業関係者の方とぶつかって、やっぱりこのままじゃまずいよねという話になっていきました。それが20年くらい前ですかね。そのあたりから徐々に環境に対する意識は変わっていったと思います。 ── 酪農における環境負荷といえば、牛のゲップに含まれるメタンガスによる地球温暖化という問題もあります。この課題については、どのように捉えていますか? 山本 メタンガスについては、やっぱり減らしていかなきゃいけませんよね。そのために今行われているのは餌の研究です。カシューナッツの殻に含まれるエキスを食べさせると、胃で作られるメタンガスが少なくなるということで餌として実用もされています。ただし、カシューナッツをアフリカから輸入するとなると、それはそれで環境負荷がかかるんですよね。 僕が1番問題だと思っているのは密飼いです。やっぱり飼いすぎはよくないなと。土地に対する草のキャパシティがあるので、うちは1ヘクタールにつき牛1頭を飼うという割合を基準にしています。 草だけでなく配合飼料を餌として与えることで、農家は倍の頭数を飼えることになります。草の量には限りがありますが、配合飼料は海外から運んでくることができる。ただし、牛が増える分、メタンガスをはじめとする大量の温室効果ガスは出るし、農業人口減による地方の衰退も進む。だから頭数を増やすことには、どこかで制限をかけるべきかなと思いますね。 ── そう考えるとシンプルな話なのかもしれないですね。狭いエリアで、たくさんの牛を飼うのは無理があると。 山本 人間も一緒じゃないですか。狭いところに大人数で入れられたらつらいし、空気も汚れていきますから。